#39 竜種絶滅秘話【滅亡世界の魔装設計士 第六章】

第六章 竜種絶滅秘話

 

 

シュウゴ
――ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

竜巻の内部では暴風が荒れ狂い、風圧によってシュウゴの全身が切り刻まれていた。

ここでは、重力が何倍にもなったかのように重くのしかかり動けない。

 

うずくまるシュウゴの前に、アークグリプスがゆっくりと舞い降りる。

すぐには攻撃しようとせず、苦しむシュウゴを見下ろしていた。

やがて、暴風と共に襲い掛かっていた風の乱撃が止んだ。

 

シュウゴ
……まだ、だ……

 

シュウゴの全身には小さな切り傷が数え切れないほどあるが、それでも立ち上がろうとする。

しかし、暴風で体を地面に押し付けられ思うように動けない。

アークグリプスは戦いの幕を下ろそうと、シュウゴの頭上で爪を高くかかげた。

 

アークグリプス

――クア?

 

アークグリプスが目を見開き硬直する。

シュウゴがゆっくり立ち上がったのだ。激しい暴風をものともせず。

その理由は、彼の全身にみなぎる稲妻にあった。

 

彼は戦いながらして、ショックオブチャージャーに蓄電していたのだ。魔力消費が早いのも無理はない。

今は全身から解き放った稲妻で、押し寄せる暴風を一時的に押し返している。

 

シュウゴ
……俺はまだ、戦えるぞ

 

シュウゴは瞳に闘志の炎を燃やし、ブリッツバスターを両手で握って中段に構えると、アークグリプスを睨みつけた。

すると、アークグリプスも見事だというように小さく頷く。

 

シュウゴ
ふっ

 

シュウゴは場違いにも思わず笑みをこぼした。

相手がまるでデュラみたいだと思ったのだ。

アークグリプスはシュウゴに襲い掛かっていた風を全て、かかげていた爪へ集める。

全身が軽くなったシュウゴは、開放状態の稲妻をブリッツバスターに集める。

 

アークグリプス
シュウゴ
「「…………………………」」

 

今、お互いの渾身の一撃が激戦に幕を下ろそうとしていた。

最後の力が激突する、その刹那――

 

――やめよっ!

 

咆哮のような威厳ある低い叫びがどこからか轟き、アークグリプスの張った竜巻の防壁を引き裂いた。

 

アークグリプス
シュウゴ
「「っ!?」」

 

それを聞いた途端、アークグリプスは飛び退き、発生させていた全ての風を消し去った。

急に視界が晴れ、嵐の後の静寂が場を支配する。

 

 

シュウゴ
な、なんだ……
ハナメ

シュウゴくん!

 

シュウゴが混乱していると、外にいたハナメが駆け寄って来る。

 

シュウゴ

ハナメっ! 無事か?

ハナメ

うん! それよりシュウゴくん、酷い傷……

 

ハナメは仮面を外し、痛ましいものを見るように眉尻を下げた。

しかし、それはお互いさまだ。彼女だってたくさんの傷を作っている。

 

二人はアークグリプスが臨戦態勢を解いているのを確認すると、アイテムポーチからポーションを取り出し飲み干した。

 

――友よ、客人を我の元まで案内せよ――

 

再び声が轟いた。

山脈に響き渡り、体の芯まで貫くような力強い声。

どうやら、山頂の方角から発されているようだ。

 

アークグリプス

カアァッ!

 

アークグリプスはシュウゴたちへ短く叫ぶと、踵を返し山頂へ続く参道へ飛んだ。

すぐに止まって滞空すると、シュウゴたちへ横顔を向け、着いて来るように目で語りかけてくる。

ハナメは警戒するように眉を寄せた。

 

ハナメ

シュウゴくん……

シュウゴ

とりあえず、行ってみよう

ハナメ

うん、分かった

 

シュウゴたちは戦いの疲労も癒せぬままアークグリプスに続いた。

 

 

二人はすぐに山頂へ辿り着く。

山頂から見る景色は壮観だった。

周囲に視界を阻むものはなく、蒼く広い空がどこまでも続いていた。

崖から下を見下ろすと、様々な色や形状の凶霧が渦巻いており、景色としては面白いとさえ思えてしまう。

 

シュウゴとハナメはあまりの優美さに圧倒されながらも、着地したアークグリプスに続き奥へと歩いていく。

やがてアークグリプスが立ち止まり横へ移動すると、現れたのは不思議な色をした小さな炎だった。

高さ一メートルほどの岩の台の上で少し浮き上がり、漆黒の炎と蒼い炎が入り混じった火の玉がメラメラと燃えている。

 

その対角線上には、二メートルほどに隆起した岩が四つ、尖った先端を上へ向け立っている。

まるで玉座を守っている壁のようだ。

アークグリプスがその横でお座りのような姿勢をとった。

 

シュウゴ
えっと……

 

シュウゴが困惑していると、炎が揺らめき声を発す。

 

客人よ、先ほどは我が友が失礼した。彼もここを守るのが使命ゆえ、どうか許してやってほしい

 

声量は抑えているが、先ほど山道の下まで響いてきた声に間違いない。

シュウゴとハナメが目を見開く。

 

ハナメ

ひ、火がしゃべった!?

ドラゴンソウル

驚かせてすまない。自己紹介をしていなかったな。我が名は龍王『応龍』、今はわけあって体を失っているから『ドラゴンソウル』とでも呼んでくれ

シュウゴ
えっ!? 龍王!?

 

シュウゴの声が上ずる。

ドラゴンソウルの迫力に畏怖を抱いてはいたが、姿は違えど憧れの龍王に出会えたことに心の底から歓喜した。

ドラゴンソウルは声の調子を変えることなく厳かに言った。

 

ドラゴンソウル

ああ、かつてこの大陸で龍の王を務めていた。そういうそなたらは何者だ?

シュウゴ
あっ、失礼しました。俺はシュウゴと言います。こっちはハナメです。俺たちはハンターという職業で――

 

シュウゴは恐縮したように顔を強張らせ、自己紹介と港町カムラ、地上の現状について説明を始めた。

ハナメはシュウゴの横で警戒を続けながら黙って聞いている。

 

ドラゴンソウル

――そうか、人間や弱き種族の生き残りがまだ……

 

地上の状況を聞いたドラゴンソウルは興味深そうに呟いていた。

 

シュウゴ

はい。俺たちは未だに絶滅の危機から脱していません

ドラゴンソウル

ふむ、そうよな。凶霧とは恐ろしいものだ

 

ドラゴンソウルはしみじみと言った。

まるで凶霧のことをよく分かっているかのように。

そこでシュウゴは気になっていたことを尋ねる。

 

シュウゴ

そういえば、この山脈はなぜ凶霧に侵されなかったのでしょうか?

ドラゴンソウル

……いや、一度は侵された。ふむ……そなたらは凶霧の秘密を暴こうとしているのだったな?

シュウゴ

はい

 

シュウゴは真剣な表情で答える。

ドラゴンソウルはしばらく沈黙した後、なにかに感じ入ったかのように穏やかな声を発した。

 

ドラゴンソウル

そなたの眼差しには強い意志が宿っているな。そなたの熱意に免じて話すとしよう。我が竜種に訪れた悲劇について

シュウゴ

お願いします

 

 

ドラゴンソウル

――かつての我々は、空を支配していた最強の種族であった。だが同時に、強者としての誇りを忘れず、他種族との争いを避けるようにしていた優しき種族でもあった。それで平和を保っていたのだ。だがある時、おぞましい『なにか』がせきをきったかのように空から降り注いできた。それも大陸の中心に。それから突然凶霧が蔓延し、あらゆる生き物を飲み込んでいった

 

初耳だった。

凶霧があらゆる生き物を飲み込んでいったという話は有名だが、その前に空からなにかが降って来たという話は聞いたことがない。

ハナメも目を見開いて固まり、心底驚いているようだ。

おそらく山から俯瞰ふかんしていた竜種だからこそ、知りえたことなのだろう。

 

ドラゴンソウル

我々も例外ではなく、凶霧はこの山まで上がって来た。凶霧に飲まれれば、誇り高き同族たちですらも、ある者は凶暴化して仲間を襲い、またある者は病に侵されて息絶え、飲まれて消滅してしまったものまでいる。それでも我々は最後まで戦い抜いた。その結果、山の凶霧はあらかた払えたものの竜種はほぼ絶滅。我も体を凶霧に侵食され滅びるしかなかったが、古来より龍王にのみ伝わる不滅の儀式によって、魂だけは留まることができたのだ

シュウゴ

そんなことが……

 

竜種は壮絶な歴史を辿っていた。
シュウゴはドラゴンソウルの無念を感じ取り胸を痛めた。
王として戦い、仲間たちの死を見てきた彼に、かけられる言葉が見つからなかった。

 

ドラゴンソウル

同情しているのか? そなたは優しいな

ドラゴンソウルは穏やかな声色で言った。

 

シュウゴ

い、いえ、俺はそんな……

ドラゴンソウル

隠さんでいい。赤の他人の事情など普通はどうでもいいはずだ。優しさという強さがなければな

 

シュウゴは急に照れくさくなり目を泳がせた。

ドラゴンソウルはクククククと笑う。

 

ドラゴンソウル

そういえば、なにやら聞きたいことがありそうな表情をしていたが?

シュウゴ
そ、そうでした。空から降って来たという『なにか』について詳しく聞きたいのですが

 

ドラゴンソウル

いいだろう。我はその光景を『空の涙』と呼んでいる

 

ドラゴンソウルは、空の涙について詳細に話してくれた。

 

当時、空は曇っていたそうだが、なんの前触れもなく、どす黒い液体が溢れる涙のように流れ落ちてきたという。

それが落ちた場所が当時の大商業都市、今では汚染された都市だ。

その液体は勢いを増し、大陸全土を覆うのではないかと思われたが、すぐに気化した。

空からの落涙は数時間で止まったが、大陸を覆うには十分な瘴気を発生させていたという。

 

シュウゴ

やはり、都市の中心にいるダンタリオンが全ての始まり……

ドラゴンソウル

都市に立つ悪魔のことか。我にはよく分からん。なんせ、空の涙が落ちてきたときには、悪魔の姿などなかった。そのダンタリオンとやらが他の魔物と同様、凶霧によって発生したものだとしか思えぬ

シュウゴ

それは……

 

シュウゴは反論できなかった。ドラゴンソウルの言う通りだ。

ダンタリオンが意思を持っているようには到底思えない。

むしろ自然にできたモニュメントといった雰囲気だ。

 

ドラゴンソウル

まぁそう悩むことはない。この大陸を歩き続ければ、おのずと真実は見えてくるはずだ。必要であれば力を貸そう

シュウゴ

ほ、本当ですかっ!?

ドラゴンソウル

久方ぶりに楽しませてもらったからな。その礼だ

 

ドラゴンソウルは朗らかに笑う。

 

ドラゴンソウル

ただ、力を貸そうにも残念ながら戦力にはなれんが

シュウゴ

それは仕方のないことです。竜種がもう、あなたとアークグリプスしかいないのでは……

ドラゴンソウル

うん? ああ、生き残った竜種はもう一人おるぞ

 

そのときシュウゴの頭に今の言葉が引っ掛かった。

ドラゴンソウルは「もう一人」と言ったのだ。「もう一体」ではなくて。

すぐにその理由を知ることになる。