第二章 闇に眠る忠誠心
それからはイービルアイやアビススライム、ジャックオーランタンらを蹴散らしながら先へ進んでいく。
途中、行き止まりでの罠や暗闇での魔物の襲撃などがあり、被害を被ったものの、洞窟の最奥付近まで到達した。
そのときには、討伐隊五人、ハンター三人とシュウゴというように大幅に戦力ダウンしていた。
彼らが立ち止まったのは、人が二人ほど並んで通れる空洞の前。
そこへはいくつもの道が繋がっており、洞窟の入口で分かれた道はここで必ず一つになるのだと分かる。
奥からは不穏な空気と静けさが漂ってきており、「なにか」がいるのだと肌で感じとれた。
皆、準備はいいか?
討伐隊長が神妙な面持ちで問い、騎士たちが「はい」と、ハンターたちが無言で頷く。
そして彼らは、死地へと踏み込んだ。
――なんだ、これは……
シュウゴたちは空洞の道を進み、殺風景な小部屋に辿り着くと足を止めた。
思わずといったように呟いた討伐隊長の目の前にあったのは、他の討伐隊員の『死体』。
ザラザラでデコボコな地面に、五人の討伐隊員の死体が投げ出されていたのだ。
彼らは騎士の甲冑ではなくレザーアーマーで、なにかに胸を貫かれていたり、深く一文字に斬られている。
周囲に蠢く影はなく、この小部屋の奥に今度は広い空洞があり、そこからは禍々しく歪んだ瘴気のような……魔力のようなオーラが溢れていた。
この奥の部屋には、人が踏み込んではならない世界が広がっているような、そんな印象をシュウゴは抱いた。
そしてその空洞の手前に一つの甲冑があった。
全身フルメタルな黄金の甲冑で頭部はない。
もちろん中はからっぽで、奇妙なことに巨大な盾を横に突き立て、メタリックに輝く立派なランスを両手で地面に刺し、下を向きながら片膝を立てている。
まるで部屋の門番のように構えるその様は、どこか勇ましく、そして不気味だった。
なんだこれ……とりあえず奥を確かめてからカムラに運ぶぞ
その甲冑に見入ってしまい、動けないでいたシュウゴを置いて、討伐隊がそれの横を回り込み奥の部屋へと歩いていく。
――カチャッ
入口で立ち止まっていたシュウゴは我に返る。
一瞬、なにかが聞こえたのだ。
しかし騎士たちの歩く音でかき消され、それがなんなのか分からない。
だが他の者たちは特に気にすることなく先へ進んでいく。
やがて討伐隊長が奥の部屋へと繋がる空洞に差し掛かった、そのとき――
――ごふっ……
彼の胸から槍が生えていた。
その厚い胸当ては、いとも容易く刺し貫かれポタポタと血が垂れ出す。
貫いていた『ランス』はそのまま後ろへと引かれ、討伐隊長が仰向けに倒れる。
彼はその時点で息絶えていた。
叫んだハンターは後ろへ跳び退き、両手の双剣を構える。
シュウゴには今の早業が見えていた。
ただのモニュメントにしか見えなかった『甲冑』が急に動き出したのだ。
それは、討伐隊長が空洞に差し掛かると同時に立ち上がり、ランスを抜きながら振り向きざまに彼の胸を貫いた。
コイツ、魔物だったのかっ!?
慌てて騎士たちが剣を掲げ、二メートルはあるかという首のない騎士に斬りかかる。
しかし敵は、冷静に目の前の騎士の胸をランスで貫き、左から迫る一人には巨大な盾を振り抜き殴り飛ばす。
さらにその場で一回転すると、ランスを薙刀のように薙ぎ払った。
騎士たちは振り飛ばされ岩壁に衝突し意識を失う。
ほんの一瞬で全ての討伐隊員が無力化された。
ハンターたちは第二波を狙い、一歩離れて構えていたことが不幸中の幸いだった。
各々双剣、斧、太刀を構え、三方向から慎重に歩み寄る。
シュウゴも険しい表情で大剣を握りデュラハンへ駆け出す。
先にしかけたのは斧を持ったスキンヘッドのハンター。
両手で力一杯振り下ろすも盾で防がれる。
デュラハンの左腕を封じたところで、二人のハンターが対面から同時に斬りかった。
デュラハンは正面のハンターへ蹴りを見舞って受け止めた太刀ごと吹き飛ばし、素早くランスを逆手に持ち替え、背後へ突き刺す。
正確に双剣使いの胸を貫くと、左のハンターの斧を盾で思い切り押し飛ばし、真正面から大剣を振りかぶるシュウゴの一撃を盾で防いだ。
――ガキィィィィィン!
甲高い金属音が小部屋に響き渡る。
……ちっ、やってられっか!
斧使いのハンターが短く吐き捨てると、部屋の入口へと走り去っていく。
続いて、太刀使いも武器を背に納め、一目散に逃げだした。
悪いね。さっさと逃げてクエスト達成とさせてもらうよ
仕方のないことだった。
彼らはハンター。
生きるために戦っている者たちだ。
そもそも討伐隊とは手段も目的も異なるがゆえに、今ここで強敵に立ち向かう義務も、一緒に倒れてやる義理もない。
シュウゴが絶体絶命の状況に顔を歪め、奥歯を噛みしめているとデュラハンが右腕を横に振るった。
シュウゴは慌ててブーツのバーニアを噴射し、飛び上がって逃れる。
デュラハンは既に逆手に持っていたランスを持ち替え、上空のシュウゴへ狙いをつけていた。
左腕にアイスシールドを展開し、鋭い突きを間一髪防ぐも、その威力に大きく突き飛ばされる。
地面へ着地するのをデュラハンが待ってくれるはずもなく――
――シュッ!
地を蹴り、前傾姿勢で鋭い突きを繰り出してくる。
シュウゴは右肘の噴射で横へ体をスライド。
デュラハンはそのまま横へ薙ぎ払ってくるが、下方への噴射でまた上昇する。
今度は、反撃のために腰下のバーニアを全力で背面噴射した。
大剣を振り下ろす。
再び盾で受け止められ、デュラハンは横へ跳んで大剣を流すとカウンターの突きを繰り出す。
シュウゴはアイスシールドで防御。
勢いよく突き飛ばされるも壁際で噴射。壁を蹴り、突進してきたデュラハンの頭上を飛び越え、背後に着地する。
振り向きざまに再び、斬りかかる。
シュウゴはひたすら機動力で立ち回り、デュラハンはキレのある鋭い動きで翻弄。電撃のような攻防がひたすら続いた。
武器と武器を交えるたび、デュラハンのまっすぐな騎士道精神がシュウゴへ伝わって来る。
デュラハンの甲冑の中に生身の肉体はなかった。
と、すると霊体か、この甲冑そのものがデュラハンの本体。
どちらにせよ、魔力残量が残り少ないシュウゴに今できるのは、デュラハンの騎士道精神に一か八か賭けるのみ――
真正面からデュラハンへ突進。
敵の動きが一瞬固まる。
まるで、彼にも明確な意思があり、シュウゴの愚直な突進の意図を考えようとしているようだ。
その答えが出たのかは分からないが、デュラハンは今まで通り電撃のような突きを繰り出す。
シュウゴは空中で上半身を後ろへ逸らすことによって、この数刻の間に何度も見た、その正確無比な突きを紙一重で避ける。
そしてそのまま地面をスライディングし、デュラハンの足へ左腕を叩きつけた。
そして、アイスシールドを発生させることで、氷結魔法によってデュラハンの脚甲を凍らせる。
瞬時に関節部まで凍てつき、デュラハンは慌ててランスをシュウゴへ振り下ろしてきた。
間一髪、シュウゴは肘のバーニアを前方へ噴射して緊急回避。
同時に、左腕を地について体を支え、大剣で凍った敵の足元を切り払う。
バランスを崩したデュラハンは、大きくのけ反り地面に片膝を着いた。
シュウゴがすぐに立ち上がり、大剣の切っ先をひざまづいたデュラハンへ向ける。
彼は上半身をシュウゴへ向けると硬直し、潔くランスと盾をその手から離し俯いたのだった。
シュウゴはデュラハンの戦意が喪失したと悟り、大剣を地面に突き立てドカッと座り込んだ。
デュラハンものっそりと上半身を起こし、膝をついたまま体をシュウゴへ向ける。