第二章 闇に眠る忠誠心
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疲労にため息を吐きつつエーテルを飲んでいると、すぐに洞窟の入口から別動隊がやって来た。
討伐隊とハンターが入り混じって十人ほど。
その中に先ほど逃げたハンターがいないことを見るに、別の道から来たのだろう。
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おい、大丈夫か!?
隊長らしきガタイの良い短髪の騎士に声を掛けられる。
シュウゴは「はい」と頷くと、状況を説明した。
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そうだったのか、ご苦労だった。後は我々に任せて休んでいなさい
討伐隊長はさして興味も無さそうに告げると、騎士と魔術師、ハンターを引き連れ、奥へと歩いていく。
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シュウゴが呼び止めるが、討伐隊は無視して先へ行く。
その後列のハンターたちはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
彼らは手柄を横取りするつもりなのだ。
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やがて彼らが奥の空洞を進み、その姿が見えなくなってからシュウゴは体にムチ打って立ち上がる。
魔力は回復したが、体力の方はポーションを飲んだところで疲労感が変わらない。
それでもシュウゴは、自分も奥になにがあるのか確かめようと、最奥の部屋を見据える。
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シュウゴが歩き出してすぐに、ランスの切っ先が横から伸び目の前へ突き出されていた。
デュラハンが膝立ちでランスを突き出していたのだ。
それはまるで、この先へ進むことを拒んでおり……
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シュウゴは眉をしかめ呟くと、大きく跳び退いて大剣を構えた。
しかし対するデュラハンは、再びランスを地面に置いた。
特に戦う意志は感じられない。
シュウゴが困惑していると奥の部屋から悲鳴が響き、すぐにドタバタと騎士やハンターたちが必死な形相で空洞から走って来る。
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あぁ、あんなの、クラスBなんてもんじゃねぇ……
逃げて出してきた八人はシュウゴの後方、部屋の入口付近で足を止めると、様子見のためか奥の部屋を凝視した。
さらに幸か不幸か、デュラハンの攻撃で気絶していた騎士たちも起き上がる。
場が異様な緊張感と静寂に包まれる中、奥から巨大な魔物が姿を現した。
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お、追ってきやがった!
ドスンドスンッと地に響く足音を踏み鳴らし現れたのは、全身が灰色の毛皮で覆われた三つ首の狂犬。
後ろ足には鋼鉄の鎖が巻かれ、前足には強靭な爪がある。
全長五メートルはあり、鋭いトゲ付きの深紅の首輪がそれぞれにかけられた三位一体の犬は、獰猛で荒々しい牙を光らせながらシュウゴたちを見下ろす。
まさしく高名なモンスターであり、ゲームでよく登場する冥府の番犬『ケルベロス』だ。
となると、後ろ足に繋がれた鎖が奥の部屋に伸びているということは――
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シュウゴの顔が驚愕に引きつる。
しかし、そんなことを考えている場合ではなかった。
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左右の狂犬が頭上へと荒々しい雄叫びを上げ、中央の狂犬が口一杯に溜めた炎を吐き出す。
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あまりに広範囲へ拡散放射された炎。
避けるのは難しいと判断したシュウゴは、アイスシールドで真正面から受け止める。
その火力は凄まじく、周囲、背後まで焼き尽くす。
討伐隊員たちは慌てて逃げ出した。シュウゴは体のいい捨て駒と言ったところか。
だが、敵がそう簡単に獲物を逃すはずもなく――
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ガウゥッ!
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バゥンッ!
中央の狂犬は炎を放射したまま、左右の首が飛ぶ。
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ちょうど首輪の辺りで綺麗に分断されており、その断面は黒い煙のようなもので包まれていた。
左の頭は宙を切り、逃げ惑う討伐隊の背後へ迫ると――
――ブオォォォォォッ!
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ぎゃあぁぁぁぁぁ!
至近距離から猛毒のブレスを放った。
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火炎ブレスに耐えながら驚愕に目を見開くシュウゴ。
そして、その背後にも右の頭が回り込んできた。
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それは既に口一杯に冷気を溜めており、
――ヒュオォォォォォッ!
容赦なく冷気のブレスを放ってきた。
前方の火炎を防ぐのみでなす術のないシュウゴは万事休す。
悔しげに目を強く閉じる。
しかし、いつになっても体が凍りつくことはなかった。
シュウゴが目を開けて背後へ首を回すと、巨大な盾がブレスを防いでいた。
それを突き出しシュウゴをかばうように立っていたのは、デュラハンだ。
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困惑するシュウゴ。
もちろんデュラハンは答えない。
冷気で手足を凍りつかせながらも、その場から動かない。
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グウゥッ!
やがてケルベロスも業を煮やしたのか、ブレスを止め前足を高く振り上げる。
千載一遇のチャンスだと悟ったシュウゴは、肘とブーツから右へ瞬発噴射し、頭上から振り下ろされた爪をすれすれで回避。
すぐさま元いた場所を見ると、三つの頭がデュラハンをとり囲んでいた。
どうやら彼らは仲間というわけではないようだ。逃げるなら今しかない。
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シュウゴはなんとなく後ろめたさを感じながらも、デュラハンへ三種のブレスが放たれたと同時に、バーニアを噴射し部屋から脱出した。
シュウゴは来た道を戻り、転石へ辿り着くとカムラへ帰還した。
紹介所で入手した鉱石の一部を納品し、完了手続きを終えると南東に離れた『討伐隊の駐屯所』へ向かう。
この駐屯所が討伐隊の本拠地となっており、下の階では交代で隊員が待機して治安維持活動を行い、物資補充や新エリア開拓の際に装備を整える場所となる。
また、二階では上層部の人間と運営管理の事務員が勤めており、様々な手続きや他組織との調整を行っている。
場所が領主の館から離れているのは、すぐ南にある倉庫街での窃盗を防ぐためだ。
シュウゴは建物に入ると隊員に案内され二階へ上がる。上がってすぐに女性隊員がおり、シュウゴへ一枚の地図を渡した。
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――それでは、この地図に詳細な情報を記載ください
その地図には洞窟内の大まかな道が示され、入口から分岐した道のうち三ルートが既に書き込まれており、端には洞窟最奥の『三つ首の魔獣』といった情報も書き込まれていた。
恐らく、ケルベロスとの戦いで逃げ延びた隊員かハンターが渡した情報だろう。
シュウゴは主に、鉱石の採取ポイントについて詳しく書いておいた。
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ご協力ありがとうございました。報酬についてはまた後程お知らせ致します
シュウゴは女性隊員に一言「お疲れ様です」と言って駐屯所を後にする。
洞窟の噂は広場の掲示板を中心に、瞬く間に広まった。
自爆するカボチャ、首のない騎士、三つ首の魔獣など。
また、ハンターたちが持ち帰った鉱石や素材の解析も進み、非常に有用なものが多く発見されたようだ。
そしてすぐに規制がかかったが、ケルベロスがいた最奥の部屋には、半透明の黒い霧に包まれた巨大な扉があったという。
その先は洞窟以外の場所に繋がっているのではないかという憶測が飛び交ったが、シュウゴの前世の知識が正しければ、繋がっているのは『冥界』だ。
しかしそんなことを誰かに言うわけにもいかず、その噂自体が口にすることを禁止された。
これを機に討伐隊は発表した。
――孤島の洞窟をクラスC以上のハンターの活動可能領域として開放。討伐隊からの協力依頼は終了とする。ただし、最奥の部屋には決して近づかないこと――と。
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――それは災難だったね~
シモンが他人事のようにケラケラと笑う。
シュウゴは両手一杯にアイテム袋を持ってシモンの元へ訪れていた。
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いいから鉱石素材を見てくれよ
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分かった分かった
ぶすっと言い放つシュウゴに、シモンはやれやれと笑い、洞窟で採取してきた鉱石の解析を始める。
とは言っても、表面上を凝視してどの程度の強度かを確かめるだけだが。
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……うん、良質なものがそろっているよ。ミスリル鉱石もあるし、これなら炎の杖と風の杖も揃えれば、初期の性能と同等の腕が作れるな
シュウゴは頷き、アイテム袋から炎の杖と氷の杖を取り出す。
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さすがに用意周到だな。それじゃ、早速作業の準備に取り掛かるから、左腕を外してくれ
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いや、ちょっと待ってくれ。これを頼みたい
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これは……腕の設計図かい?
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そうだ。ケルベロスの攻撃を見てひらめいた
~~オールレンジファング~~
隼の腕部装甲。
カラーリングをやや暗めのメタリックにしているが、基本の性能は初期と変わらない。
アイスシールドの展開、肘付バーニア、圧倒的な膂力。
今回はそれらに加え、この腕の芯に幾重にも巻いたアラクネの糸を使う。
そして肘から下を着脱可能にし、肘バーニアによって腕だけを遠距離まで伸ばすことを可能とした。
ケルベロスの首着脱によるオールレンジ攻撃から着想した、いわば『有線式誘導アーム』だ。
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はぁ~また面白いの考えたねぇ……けど、中々難易度が高いよこれ
シモンは感嘆の声を上げたものの、その製造の難しさに頭を悩ませる。
特に難しいのは、飛んだ腕を引き戻すための糸の巻き取り機構のようだ。
イメージとしては、棒状のものに糸を巻き付け、腕が飛ぶときは棒が回転しながら糸を伸ばし、腕を引き戻すときは風魔法で取っ手を回転させて糸を巻き取る。
シュウゴもこの町の技術では難しいなど重々承知だった。だから、深く頭を下げ必死に頼み込む。
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そこをなんとか頼む。金だって多く積む。だから――
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分かったよ。大丈夫、なんとかするさ。シュウゴは大事な大事なお得意さんだからね
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ありがとう。助かるよ
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ただ、悪いけど造れるのは片腕だけだ。それに、内部機構の製造や腕の加工に時間がかかるから、一週間ぐらい片腕だけの生活になるけど我慢してくれ。最短で一週間だから、遅れても文句は言わないでくれよ?
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分かった。よろしく頼むよ
シュウゴは左腕を差し出し、シモンが工具で肩と腕の連結部を器用に外す。そのまま外した左腕をシモンへ預けると、シュウゴは家へ帰るのだった。
それから一週間、掲示板で情報を集めたり、商業区の品を確認したり、前々から設計を進めていた内容に修正を加えたりと、シュウゴは平和な日々を過ごしていた。
ただ、あの日シュウゴを助けたデュラハンの姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
無意識に洞窟の情報をかき集め、次に洞窟に行ったときどのルートで進むかなどを考えてしまう。
その日も広場の掲示板を眺め、新しい情報がないか探していた。
洞窟は今ではすっかり人気スポットになったが、危険性もそれだけ高い。
以前、シュウゴが途中で遭遇した魔物はイービルアイ、ジャックオーランタン、アビススライムだけだったが、別のルートでは、クラスCモンスターの巨大な一つ目鬼『サイクロプス』やクラスBモンスターの巨大悪魔『ミノグランデ』などが目撃されている。
マップ解析も進み、今では討伐隊の公表した地図に、採取ポイントや採取可能アイテムを書き込んだ地図を売る情報屋も現れてきた。
だが、いまだに洞窟の最奥に挑戦しようという無謀な者はおらず、デュラハンのその後は分からないままだ。
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……って、これじゃあ恋する乙女だよ……
シュウゴはげんなり肩を落とし頭を抱える。やはりどうしても気になるのだ。
この一週間で忘れられるのではないかという期待もあったが、言いようのないモヤモヤが胸に残っていた。
なぜ、ここまでデュラハンのことが気になるのか、それは――
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(寂しそうだったから、かな)
初めて小部屋でデュラハンを見たとき、どこか寂しさを感じた。
あんな場所に長いこと一人で敵を待ち続ける孤独。
これがそこら辺の魔物で、獲物を喰らうためなどであれば共感できないが、彼は一人の騎士だった。
もしその心が人の形を失っていないのだとしたら、孤独への恐怖は計り知れない。
シュウゴはそんなことをしばらく考えながら、一日を終える。
シモンから左腕の完成を知らされたのは、ちょうど十日が経ってからだった。
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悪いね、遅くなってしまって
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いやいや、こちらこそ無理を言ってお願いしたんだから、構いやしないさ
シュウゴはシモンに左腕を装着してもらい、手をグーパーに軽く開閉した。
稼働は良好。
次に、シモンの書いた説明書を読み、床へと腕を放ってみる。
――バシュンッ!
手は肘から勢いよく飛び出し、床にハイタッチする。
肘の断面からは太く白い糸が伸び、外れた腕に繋がっていた。
糸を通して魔力を流し込むと、外れた手の指も思い通りに動かせる。
肩辺りに風魔法を集中すると糸が勢いよく巻き取られ、腕が下から引き上がり分断面に綺麗にはまった。
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こりゃ凄いな……
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おいおい、自分で考えた設計だろぉ? それともこのシモン様じゃ、技術が足りないとでも思ったか?
シモンが「あぁん?」と半眼でシュウゴを睨みつけると、シュウゴは苦笑した。
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もちろん、最初から信じてたよ
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どうだかな。それより君、全然嬉しそうじゃないねぇ
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え?
シモンが突然声のトーンを下げると、シュウゴは目を丸くし頬を引きつらせた。
シュウゴが「そ、そんなこと……」と口ごもると、シモンは部屋の奥からガサゴソとあるものを取り出した。
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ほれ、持ってきな
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っと
シモンが放り投げたそれをシュウゴがキャッチすると、その腕に収まったのは騎士が被るような兜だった。
頭がすっぽりと入り、顔面の部分はスライド式で完全に覆ったり顔を晒したりできる。
しかしシュウゴには発注した覚えがなかった。
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シモン、これは一体……
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まったく、君って奴はぁ
シモンは深いため息を吐き、眉をしかめるシュウゴに言った。
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探しに行くんだろ?
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っ……
シュウゴは目を見開き息を呑む。
そのときようやく彼の意図が分かった。
もしデュラハンを見つけてカムラへ連れてきたとしても、首も肉体もないのではまず転石の前にいる神官が不審に思う。
ならば、兜をかぶせて洞窟内で合流した騎士だとすれば問題ない。
神官はあくまでクエスト出発の際の転石使用料を取るだけであり、クエスト内容の管理などしていないからだ。
それでもシュウゴには迷いがあった。
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で、でも……
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君の言っていたデュラハン、例の手記に書いてあったよ
シモンはその内容について、シュウゴへ語る。
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――っ!! シモン、ありがとう!
シュウゴは弾かれたように頭を上げると、左腕の代金と兜のお礼として相場以上の金を置き、すぐさま鍛冶屋を出た。
シュウゴは家ですぐに装備を整えると紹介所へ行き、適当な依頼『洞窟での鉱石採取』を受注して孤島の洞窟へ向かった。
洞窟へ転移すると即座に腰バーニアを噴射し、推力走行で以前通った道を駆け抜ける。
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邪魔だぁっ!
まるで流星の如く、圧倒的な機動力を発揮し、迫る魔物たちを斬り捨てていく。
どうやらそれぞれの道の魔物の生態系は変わらないようで、ジャックオーランタンやイービルアイは再出現していたものの、サイクロプスやミノグランデは現れない。
以前苦戦したトラップ部屋を回避し、最短ルートを突っ切り、エーテルで魔力を回復しながらひたすら進む。
やがて、ものの十数分で目的の小部屋へと辿り着いた。
息を切らしたシュウゴが前を向くと、彼はいた。
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良かった……
デュラハンの鎧はボロボロだった。
いたるところが凹み、装甲が剥げたり変色したりしている。
恐らくケルベロスによるものだろう。
それでも彼は、以前と変わらず奥の部屋の前で片膝をつきランスを地面へ突き立てていた。
高潔な騎士を思わせながら、やはり哀愁が漂っている。
シュウゴの声に反応し、デュラハンがゆっくりと立ち上がった。
そして一歩一歩静かに進みながら、シュウゴの前まで歩み寄ると再び膝を折った。
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お前、ずっと待っていたのか
シモンが見せてくれた謎の手記によると、デュラハンは生前、ある主君に心酔し仕えた騎士だった。
しかし最後、主君は乱心し全ての罪をこの騎士に被せ、断頭台に送ったのだ。
騎士は無念さゆえ、首を失っても肉体が朽ちても思念は留まり、この冥界の前で新たな主を探し続けていた。
自分を倒せるほどの実力と、まっすぐな剣を持つ、真に仕えるべき主を。
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デュラハンは片膝を立て、右で逆手に持ち直したランスを地面へ刺し、左手は胸の前へ。そして、深く上体を倒した。
突然のことだったが、シュウゴはデュラハンの忠誠を得たのだと自然に理解できたのだった。