第三章 貴族たちの世界
アストライア家は定期的に屋敷を開放し、酒や食事を振る舞うパーティーを開いているそうだ。
参加の条件は、アストライア家が出資する血酒専門店ヴィーナスの会員とその紹介者のみらしいが、リリーナと僕はケシーの紹介ということで参加できるらしい。
子爵家が主宰するということもあって、基本的には会員の審査が厳しいらしく、なおかつ高額な会費を支払っていないといけないのだとか。
そのため、参加者の多くは貴族や大商会の幹部とその家族で、信用できる人しかいないという話だ。
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――さて、本番はここからだ
街路灯に照らされた夜道を歩きながら、リリーナは呟いた。
彼女はいつものフリルやレースで飾られた黒いドレスを着てはいるが、質感から普段よりもワンランク上のもののようだ。
僕もワンピースタイプのドレスを着るよう強制されてしまった。露出の少ない清楚なものだから良かったけど。
もちろん刃物の持ち込みは禁止なので、斬鉄剣は屋敷に置いてきた。
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さきほどのケシー様のご様子からすると、リリーナさんはこの手のパーティーにはあまり参加されていないのですか?
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そうだよ。私も複雑な立場だから、あまりそういう場には行きたくないんだ。しかし、情報交換に最適な場なのは間違いない。だから今回は、お偉い貴族たちに君という存在をアピールする
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私の存在なんてアピールしてどうするのでしょう?
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マウントだよ。ケシーの反応からして分かっただろう? 君は貴族から見ても、嫉妬するぐらい美しい。そんな君をそばに置いているというだけで、貴族たちにマウントがとれるからね
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ちょっと複雑です……
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悪いけど我慢してくれ。もしかすると、懇意にしてくれる貴族や商人が現れるかもしれない。そうなれば、後々の立ち回りが楽になる
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なんだか、他人の好意を利用するようで気が引けますが、リリーナさんの未来のためです。お好きなだけ私をお役に立ててください
こういうしたたかさがリリーナの魅力だ。
彼女の目的のため、僕の複雑な心境は置いておいて可能な限り力になろう。
アストライア家の屋敷につくと、外からでも爛々と輝く明かりや楽しげな声が漏れてきて、にぎわっているのが分かった。
受付を済ませてホールに入ると、煌びやかなシャンデリアの下で身なりの良い老若男女が高級そうな酒や豪勢な料理を手に、優雅に談笑していた。
高い質感を誇るスーツを着た貴族の紳士や、しわのない光沢あるコートを着込んだ商人、そしてボリューム感のあるドレスで着飾ったその妻と若い娘たち。
ここにいる誰もが気合を入れてきているのが分かる。
周囲を見渡してみると、二階のバルコニーへ上がって行く人がいたり、夫婦でのんびり食事を楽しんでいるペアもいるが、目立ったのは中央の人だかりだ。
スラリと背が高く、顔目立ちが抜群に整った黒髪のイケメンが令嬢たちに囲まれて苦笑していた。
彼女らは、目にハートを浮かべキャーキャー騒いでいる。
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さすがはグレイシャル男爵。大変そうだな
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あの方をご存知なのですか?
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ウィニング・グレイシャル。見た目の通り若いが、男爵家の現当主だ
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そうだったんですね。美形で財もあるなら、人気があっても不思議じゃないです
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そして、私の目指すべき姿でもある
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どういうことでしょう?
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彼は少し前まで、金庫番で働いていた平民だった
金庫番とは、個人や商会の資金を預かるための金庫を保有し、口座管理をなりわいとする金融業者だ。
また、信用力を審査し、融資を行ったりもする。
しかし男爵家の当主が元平民とは意外だ。
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ということは、もしかして……
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想像の通りだよ。彼は金融商品の取引においては、天才的な手腕を持ち、金融市場での取引で莫大な利益を上げたんだ。さらにその大金を、いくつかの中小商会に出資して先行投資にあてさせ、大商会にまで急成長させた。その功績を認められたことで、伯爵の所有する一部の土地の買い取りを許され、爵位を授かることができたという話だ
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まるで物語にでもなりそうな素敵な話ですね。そんな凄い方がいるなんて
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他人事じゃないぞ。平民から貴族に成り上がるというのは、そういうことなんだから
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僕はニッコリと微笑み他人事のように言った。
そりゃそうだろう。
僕には一生かかっても真似できない芸当だ。
ウィニングもアリエスのように、才能の格が違う。
僕はせめて、リリーナさんの邪魔をしないように頑張ろう。
すると彼女は、僕の心を読んだかのように、やれやれとため息を吐いた。
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まったく君は、自分のことを過小評価しすぎじゃないか?
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なんのことでしょう?
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美貌というのは強力な武器だ。それを利用して貴族を魅了すれば、一晩で生活が変わる
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私たちには関係のないことですねっ
僕はまたニッコリ微笑んだ。
だって、そんな方法は気高いリリーナには似合わないし、ましてや男の僕には無理だ。
想像しただけで身の毛がよだつ。
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……もういい、ケシーのところへ行くぞ
やれやれと困ったように苦笑したリリーナは、早速ケシーの姿を見つけ歩いて行く。
ちょうど彼女と話していた令嬢たちが離れたところだ。
僕もついて行こうと歩き出したが、突然後ろから呼び止められた。
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お嬢さん、少しお時間頂いてもよろしいですか?
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はい?
振り向くと、そこには爽やかな笑みを浮かべた金髪の青年が立っていた。
かなりの美形で、着ている上衣やベストなどの身なりを見ても、それなりの家柄のご子息に見える。
リリーナは先に歩いて行ってしまうし、なんだか嫌な予感がするんですけど……
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突然呼び止めてしまって申し訳ありません。あなたの美しさに目を奪われてしまったものですから
……は?
男にそんなこと言われても全然嬉しくない。
僕が辟易して頬を引きつらせていると、それを合図とばかりにわらわらと人が集まってきた。
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おい待て! 俺も彼女に声をかけようとしていたところだ!
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いいや、彼女には子爵家の嫡男であるこの私が!
そう言って次から次へと男どもに取り囲まれてしまう。
な、なんなんだ!?
確かに美形は多いけど、男に囲まれても嬉しくない!
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まぁ、あれをご覧になって
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なんてお綺麗な方なんでしょう。きっと、とても高貴な身分の方に違いありませんわ
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ええ、彼女の元へ、高名な家柄の方々が競うように迫っているんですもの
周囲で見ている若い令嬢たちは、ポッと頬を赤らめて僕が金持ちのボンボンたちから詰め寄られている様子をうっとり眺めていた。
見てないで、誰か助けてぇぇぇっ!
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僕はレイル・グランゾン。どうかあなたの名を教えてほしい
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え、えっとぉ……
男どもの勢いに圧されて後ずさる。
助けを求めてリリーナとケシーのほうへ目を向けると、二人は談笑しておりこちらを見向きもしていない。
リリーナが楽しそうで僕も嬉しいけど、今はそれどころじゃない。
他に打開策はないかと慌てて周囲を見回すと、見覚えのある令嬢がこちらを見ていた。
栗色の長い髪に、表情の希薄なこの女の子は――
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ア、アリエス・コリン……
変態の彼女がなぜここに!? って、宝石商の娘でアートでもかなり稼いでるって話だから、不思議じゃないか。
彼女はじっくりと目を離すことなく僕を見つめていて、目が合うと、なにやら唇を動かした。
えぇ、なになに……
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『食べちゃうゾ❤』
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(ひ、ひぃぃぃぃぃっ!)
全身の毛が怖気立った。
彼女は本気だ。
二ヤリと口の端をサディスティックに歪め、舌なめずりしている。
とてもセクシーで魅力的だけど、ピンチだ!
恐怖のあまり、僕は思わず股間を……じゃなかった、スカートを押さえてしまう。
すると、周囲の男性陣が急に固まった。
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顔も赤いし、具合が悪いんじゃないか? 僕が介抱してあげよう
よし、逃げよう!
僕は彼らが固まっているうちに人混みをかき分け、屋敷の出口へと走り出した。
申し訳ありません、リリーナさん、自分の身に危険が迫っているので、一度この場を離れます!
護衛としては失格だけど、信用のある人たちしかいないし、大丈夫だろう。
それに、こんな身分の高い人たちがいる中で、没落貴族のリリーナを狙う理由がない。
それよりも僕が男だとバレて、連れ込んだリリーナの品位が疑われるほうが問題だ。
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な、なんて速さなんだ!?
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彼女はいったい……
これでも秘剣を継承した鬼人。
ドレスのスカートだろうと、それなりに速く走れるのだ。
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――よしっ! 来るなら来なさい!
僕は屋敷の前にある大きな噴水の前で立ち止まると、背後を振り返った。
アリエスと真正面から対峙するつもりだ。
体に触れさせさえしなければ、男だとバレることはない。
しかし、屋敷のほうから歩いて来たのは、アリエスではなかった。
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君は、さっきの……
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ウ、ウィニング・グレイシャル、様?
そこにいたのは、さっきまで可憐な令嬢たちにキャーキャー言われていた色男だ。
輪郭はシャープで、鼻が高く目元はキリッとした精悍な顔つきだが、甘く柔らかい笑みをたたえているため親しみやすさもある。
だが今は、目を丸くしてこちらを見つめていた。
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驚いた。もの凄いスピードで横を走り抜けて行くから、いったい何者かと思ったよ
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え、えっと……足の速さには自信があるんです。そういうウィニング様は、あの状況でよく抜け出せましたね?
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君のおかげだよ
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私ですか?
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ああ。君がみんなの注目を集めてくれたから、その隙に逃げたんだ。まさか追い越されるとは思ってなかったけどね
ウィニングはそう言って苦笑する。
どうやらこちらのことも見ていたらしい。
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お互い、大変でしたね
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まあね。本当は来たくなかったんだけど、なにかおもしろい話が聞けるかもしれないから
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私たちも似たようなものです
彼もリリーナと同じ考えのようだ。
そうだ、彼女のためにも情報収集しておこう。
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なにか、おもしろい話は聞けましたか?
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いや、全然だよ
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そうですか……それは残念でしたね。では、もうお帰りになられるのですか?
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そうだねぇ、そのつもりだったんだけど、君に興味が湧いた
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へ?
あ、これはまずい……突然ピンチになった気がする!
僕が警戒に身構えていると、ウィニングは微笑みながら聞いてきた。
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もう知っているようだけど、僕はウィニング・グレイシャル。君は?
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え、えっと……ルノ・カーストです。平民です
さすがに自分だけ名乗らないのは気が引けるので、答えてしまった。
とりあえず、貴族の嫌いそうな情報を追加しておいたので、興味を失ってくれると嬉しい。
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ルノさんか。実は僕も、元は平民なんだ
あっ、そういえばそうでしたね!
逆に会話の入口を広げてしまったぁ~
えぇい、こうなったら、自分以外の人の話に注意を向けるしかない!
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存じ上げております。実は、私の友人も貴族になることを目標にしておりまして
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へぇ、そうなんだ。その目標、達成できるといいね
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はい。それでお聞きしたいのですが、平民から貴族になると、どんな変化があるのでしょうか?
自分でも変なことを聞いていると思う。
必死に話をそらそうとした結果、勝手に出て来た質問だ。
それでも気にはなる。
もし、リリーナが貴族となったとき、僕を……ルノ・カーストをどうするのか、僕たちの関係のなにかが変わるのか。
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変化か……それは人によると思うよ。ただ、僕はなにも変わらなかったかな
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そう、ですか……
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なんのために貴族を目指すのか、というその人の目的次第だよ。富や名声が欲しいのなら、平民だった頃の生活とはがらりと変わるだろうし、貴族の権力で誰かを救いたいと思うのなら、その人との明るい未来が待っているのかもしれない。でも僕には、目的なんてものはなかった
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そうなのですか? では、ウィニング様はなぜ貴族に?
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満たされないんだ
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え?
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早くに家族を失くし、僕は一人になった。それからはただ虚ろな毎日を過ごし、生きるために淡々と金を稼いできた。財力があれば満たされるのかもしれない、そう思ったけど、どれだけ稼いでも満たされることはなかった。それなら権力があれば、満たされるのかもしれない、そう思って貴族を目指したけど、結局なにも変わらなかったんだ
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それはお辛いですね……
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……すまない、自分のことばかり語り過ぎた
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いえ、いいんです
こっちはそれが目的だったし。
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なぜだろう? こんな話、他人にはめったにしないのに、君になら自然と気安く話すことができる
それは僕が男だからではないでしょうか? とは言えない。
でも彼の話に共感したからこそ、僕も言いたいことがある。
リン・カーネルの本心として。
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そうだったのか
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でも、素晴らしい友人との出会いによって、満たされない虚ろな日々は終わりました
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それはどうして?
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彼女が色々なものを与えてくれたのです。見えていなかったものを見えるようにしてくれたのです。そのおかげで、世界が変わりました。ウィニングさん、もし一人でどれだけあがいても、『満足』が手に入らないのなら、それは誰かの力を借りなければ届かないところにあるのかもしれません
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っ……
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もしかすると、あなたには救いの手を差し伸べてくれる人との出会いが必要なのかもしれませんね
そこまで言い切ると、僕は我に返った。
やってしまったぁっ……自分がすっきりするまで語ってしまうなんて、ただのイタイ奴じゃないか!
僕のバカっ、ウィニングさんだって目を丸くして固まってるよ。
絶対変な奴だと思われた……
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も、申し訳ありません! 一人で変なことを語ってしまって!
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ははっ、可愛い顔して凄いなぁ君は
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え?
今度は僕が目を丸くする番だ。
今のウィニングの表情は、まるで憑き物が落ちたかのような晴れやかな笑顔だった。
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さっき僕が言ったことは撤回するよ
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えっと、なんのことでしょう?
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今日はおもしろい話が聞けなかったと言ったことだよ。たった今、いいことを聞いた
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そ、そう言って頂けるのなら、良かったです
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あぁ、それじゃあルノさん、次また会ったら話に付き合ってほしい
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ええ、喜んで
微笑みながら答えると、ウィニングは満足そうに頷き、去って行くのだった。
あまり男に近づきたくはないけど、彼となら良い友達になれそうだ。