#11 親愛なる人へ【投資家ハンターの資金管理 第四章】

第四章 『ヤマト運用商会』結成

 

 

~~親愛なるケルベム・ロジャー様へ~~

あなたの元を離れて長い年月が経ちますが、お元気でしょうか? お体に障りないでしょうか?

僕のほうは大丈夫です。

 

一時はどうなることかと思っていたハンター生活も、今では素晴らしい仲間たちと出会うことができ、想像とはまた違った有意義な日々を送っています。

もちろん、師匠から教わった多くのことは、なに一つ忘れたりしていません。

前パーティの資金管理係としての仕事に忙殺され、一時は忘れかけていた僕の夢もようやく思い出すことができました。

仲間のみんなには内緒なのですが、実はあと少しで、新しい道へと進むことができそうなのです。

 

今の仲間たちなら、心配ありません。

マヤという女の子が、僕のようになりたいと嬉しいことを言ってくれて、資金管理や運用のことについて色々教えていますし、ラミィ、ハンナ、シルフィという優しく強い仲間たちも、努力の末にハンターとして十分な実力を身に着けました。

もうそろそろ僕はお役目ご免となることでしょう。

寂しくはありますが、師匠に近づくため、夢を叶えるため、僕も前へ進もうと思います。

 

長くなりましたが、最後に今一度お伝えします。

僕は元気です。

素晴らしい仲間たちに巡り合えて、とても幸せです。

師匠も、僕のことは心配せず、より多くの人たちを救ってあげてください。

僕にそうしてくれたように。

~~ヤマトより~~

 

ヤマト
ふぅ~

 

一通り手紙を書き終えたヤマトは、椅子に背もたれ大きく背伸びする。

平和な日々が続き、時間があるうちに師匠へ近況報告をしようと考えたのだ。

手が疲れ、達成感にほうけていると、机の上にピー助、ポゥ太、キュウ子が降りてきた。

ピー助
クェッ?
ポゥ太
クックッ
キュウ子
キュルルッ!
ヤマト
うん、そうだよ。師匠への手紙さ

 

小鳥たちはなにやら楽しそうに言い合っている。

幼少の時からの付き合いである彼らも、ヤマトの育ての親である師匠のことはよく知っているのだ。

 

ピー助
クェッ、クェェェ!
ヤマト
あっ、そうだね、分かったよ

 

ピー助から自分たちのこともちゃんと書くようにと注文を受け、修正を加え始める。

ささっと書いて小鳥たちに確認をとると、満足げに鳴いたので、今度こそ完成だ。

ヤマトはベッドの上へ移動すると、気の抜けたようにどかっと腰を下ろした。

 

ヤマト

師匠、元気かなぁ……

 

ヤマトが懐かしむように目を細めて上を向いていると、ポゥ太が肩にとまる。

 

 

ポゥ太
クポゥ!(また会いたいね!)
ヤマト

うん、そうだね……

 

ヤマトは眉尻を下げ、寂しそうに頷く。

もちろん彼も、ポゥ太たちと気持ちは同じだ。

でも、そう簡単に叶う願いではない。

師匠は非常に忙しい人で、この手紙だって屋敷へ送るものの、師匠がいつ帰ってきているかは分からないのだ。

 

ヤマト

いつかまた会えるよね

 

その日が楽しみだと、頬を緩め呟くと部屋の扉がノックされた。

 

 

ラミィ

ヤマトぉ、いるかーい?

ヤマト

あれ? もうこんな時間か。どうぞー

 

ヤマトが返事をすると、扉が開きぞろぞろとトリニティスイーツの四人が入って来た。

すると、机の上にいた小鳥たちが嬉しそうに鳴き、ピー助がシルフィの胸へ、ポゥ太がハンナの胸へ飛び込む。

シルフィ
ふふっ、ピー助さん、ただいま戻りました
ハンナ

こら、くすぐったいよポゥ太

 

小鳥たちもすっかり彼女たちになついていた。

とはいえ、ピー助たちの言葉の分かるヤマトには、ただのスケベ心からだと分かっていたが。

キュウ子だけはメス鳥なので、不機嫌そうに「キュッ」と鳴いて、ムスッとした様子でヤマトの肩に乗る。

 

ヤマト

みんな、クエストお疲れさま。ケガはない?

ラミィ

もちろんだよ。今日も絶好調だった

シルフィ

ですね。レアな素材もたくさん手に入りましたし

 

最近のトリニティスイーツは順調で、ヤマトが管理しなくても、マヤさえいれば資金管理面での問題はなくなってきた。

むしろ、消耗品アイテムや余剰資金などに余裕があるときは、マヤ自身もパーティのステータス強化要員としてクエストへ出ているぐらいだ。

 

マヤ

先生のほうは、どうされていたんですか?

 

ヤマト

僕は、ちょっと手紙をね

 

ニコニコ問いかけてくるマヤに、机の上を一瞥いちべつしつつ答えた。

それを聞いたシルフィとハンナがくいついてくる。

 

シルフィ

お手紙、ですか?

ハンナ

ま、まさかっ、恋人!?

ヤマト

いやいや違うよ。昔、僕を育ててくれた師匠に近況報告をするだけさ

マヤ

まぁ! 先生の先生ということですね!?

ヤマト

まぁ、そうことになるかな

ラミィ

ヤマトの幼少期か……興味あるな

ハンナ

た、確かに!

シルフィ
もしご迷惑でなかったら、聞いてみたいです
ヤマト

え? まぁ別に隠すことでもないし、いいけど……

 

ヤマトは美少女たちに興味があると言われては悪い気がしないので、昔のことを語り始めた。

 

 

――ヤマトはかつて、森の中で育った。

両親に捨てられたのか、なんらかの出来事があって森へ放りだされたのかは、本人も覚えていない。

森で長いこと生活しているうちに、動物たちの言葉が分かるようになり、ピー助やポゥ太たちに出会った。

 

動物たちとの生活は慣れれば苦ではなかったが、ある日、たまたま森を通りがかった一人の女性と出会う。

彼女は、ヤマトに興味を持つと森から連れ出し、自分の元で育てた。

実は彼女の正体は、国内でもそれなりに有名な個人投資家だった。

 

しかし、ヤマトは別に『投資家』として育てられたのではない。

ただただ彼女の金に対する教育が厳しかっただけだ。

師匠はかなりの稼ぎがあり、裕福だったが、ヤマトが決してそれに溺れないようにと、少ない小遣いだけを与え、それで生活するように強制した。

 

今考えれば、十歳ちょっとの少年にはかなりスパルタな教育だが、ピー助たちが一緒にいてくれたおかげで、彼らが観察した師匠の手法を見よう見まねで実践することができた。

そうやって小鳥たちの協力を得て、いつの間にか投資家としての手法を身に着けていたというわけだ。

 

 

シルフィ

ヤマトさんも辛い経験をされてきたんですね……

 

ヤマトが話し終えると、シルフィがうるうると涙目で見てきた。

マヤたちもなんだかしんみりした雰囲気になっている。

 

 

ヤマト

別に大した話じゃないよ。それに、師匠に拾われたおかげで、ここまでこられたんだから

ラミィ

ヤマトは強い男だね。人には優しいくせに、強い芯のようなものを持ってるんだから

 

ラミィがうんうんと頷き、ヤマトは「そんなことないよ」と照れくさそうに首を横へ振る。

 

ヤマト

……あっ、丁度いい機会だ

 

ヤマトはふと、手紙の内容を思い出し、ベッドから腰を上げ立ち上がった。

これからのことを話すべきだと思ったのだ。

ハンナはヤマトの雰囲気が変わったことに首を傾げる。

 

ハンナ

ヤマトくん、どうしたの? 急に真面目な顔になっちゃって

ヤマト
うん。実は話しておかなきゃいけないことがあるんだ
ラミィ

それは……いったいどんな話、かな?」

 

ラミィはヤマトの表情からかなり大事な話なのだと悟ったようだ。

緊張で少しばかり頬を強張らせている。

 

ヤマト
僕は今まで、色々とトリニティスイーツへのアドバイスや資金管理をしてきたけど、そろそろ正式に手を引こうと思う
シルフィ
……え?
ハンナ

そ、そんなぁ……

 

思いもよらぬ言葉に、シルフィとハンナが瞳を揺らす。

対してマヤは、表情を曇らせるだけであまり動揺しておらず、神妙な面持ちで見つめていた。

おそらく予想していたのだろう。

みんなの疑問をラミィが代表して問う。

 

ラミィ

理由を聞いてもいいかな?

ヤマト

一つは、君たちがもう十分強いパーティになったこと。それも、全盛期のソウルヒートを超えるぐらいにね。もう一つは、僕の新しい挑戦のためだ

ラミィ

挑戦?

ヤマト

実は、個人で商会を立ち上げようと思うんだ

マヤ

え? 商会を、ですか?

ヤマト

僕には師匠みたいになるっていう夢があってね。そのためには必要なことなんだ

シルフィ

そう、ですか……それなら仕方ない、ですよね……

 

シルフィは寂しそうに俯く。

言いたいことを我慢しているようだ。

 

ヤマト

大丈夫だよ、シルフィ。別に遠くへ行くわけじゃないんだ

 

すると、今度はマヤが目の前まで歩み寄ってきて、潤んだ瞳で見上げてきた。

 

マヤ

そんな、先生……私、まだ自信がありません。とてもではないですが、まだまだ先生のようには……

ヤマト

大丈夫だよ、マヤ。別に僕のようにやる必要はないんだから

マヤ

先生……

 

マヤはそれ以上なにも言わず、熱っぽい視線を至近距離でぶつけてきたので、ヤマトは思わずたじろいだ。

なんだか情熱的な雰囲気にドキドキしてくる。

 

ハンナ

こらー! そこ近いよ!

シルフィ

そ、そうです! なにどさくさに紛れていい雰囲気になってるんですか!?

 

ハンナとシルフィが声を上げ、ラミィがくすくすと笑う。

ようやくいつもの雰囲気が戻って来た。

マヤは「別にいいじゃないですか」と言ってもっと密着してこようとするが、二人の間にキュウ子が割って入った。

 

キュウ子
キュゥッ!(ヤマトさんは、誰にも渡しません!)
マヤ

はぁ、キュウ子さん、あなたはいつも肝心なところで……

 

キュウ子の言っていることが分かるヤマトだが、今回はあえて触れないでおく。

ちなみに、ピー助とポゥ太は、シルフィとハンナの肩の上から嫉妬に燃える目を向けてきていた。

 

ラミィ
コホンッ! まあ、なにはともあれ、ヤマトが新しい道へ進もうというのだから、仲間として応援しようじゃないか

 

ラミィがリーダーらしくまとめると、ハンナ、シルフィ、マヤが頷いた。

シルフィは、ヤマトの両手を優しく包み、微笑みながら告げる。

 

シルフィ

ヤマトさん、心から応援しています。でも仲間であることに変わりはありません。これからもよろしくお願いしますね

ヤマト
もちろんだよ

 

ヤマトはシルフィの手の上にもう片方の手を乗せ、これからも彼女たちの助けになろうと胸に誓うのだった。