第三章 逆転する立場
ハンター活動を休みとしている休日の朝、ヤマトが他国の歴史書に目を通していると、シルフィが部屋にやって来た。
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ヤ、ヤマトさん!
珍しく大きな声を出した彼女は、顔を真っ赤にし頬を強張らせている。
なぜだか緊張しているようだ。
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シルフィ? 急にどうしたの?
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い、一緒にっ、買い物へ行きませんか!?
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えっと……
ヤマトは首を傾げる。
買い物に誘うだけなのに、どうしてそんなに緊張しているのかと。
理由はよく分からないが、なにかしら不安を抱えている様子の彼女を気遣い優しく微笑んだ。
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……うん、別にいいよ
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ほっ、本当ですか!?
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もちろん
するとシルフィは目を輝かせ、ぱぁっと花が咲くかのように笑みを浮かべた。
それを見てヤマトも安心する。
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そ、それでは、すぐに準備してきますね
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うん。宿の入口で落ち合おうか
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はいっ、よろしくお願いします!
シルフィはペコリと律儀に頭を下げて部屋を出て行った。
突然の出来事に困惑するヤマトだったが、部屋を出て行くときの彼女の足取りは軽かったので良しとする。
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ふんふんふーんっ♪
町へ繰り出したシルフィは今まで見たこともないほど上機嫌だった。
綺麗な銀髪にはリボンの着いたカチューシャを着け、花柄のワンピースの上に薄手のカーディガンを羽織って、小さなポーチを腰に下げている。
小さな妖精のようで可愛らしい。
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それでどこへ行くの?
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お洋服を見に行きましょう
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うん、分かったよ。お金のほうは大丈夫?
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はいっ、このときのために貯めておきましたから
そう言ってシルフィは白い歯を見せて笑みを浮かべる。
パーティーメンバーには、ヤマトの資金管理の範囲内で生活費を毎月支給しているが、どうやら困っている様子はなさそうだ。
貯金する余裕があるのなら問題ないと、ヤマトは内心ホッとする。
クエストでの話や、ラミィやハンナと喧嘩をした話など、無邪気に話すシルフィに和んでいるうちに、目的の店へ着いた。
白と黒のシックな外装の立派な店だ。
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……あれ? 待ってシルフィ
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はい? どうされました?
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いや、だってここは男ものの服屋だよ
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そうですよ。だって、買いに来たのはヤマトさんの服なんですから
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……え?
ヤマトは思わず面食らい、目を丸くした。
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ちょ、ちょっと待って! それだったら、僕の金で――
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いいえ、私がヤマトさんの服を選んで、自分のお金で買って贈りたいんです
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どうして……
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そんなの決まってます。いつも私たちのために頑張ってくれるヤマトさんへのせめてものお礼ですよ
シルフィは恥ずかしそうに微笑む。
ヤマトは目を見開き息をのんだ。
当たり前のようにしていた自分の仕事への礼など、考えたこともなかった。
ソウルヒートではまったく認められていなかった役割だからこそ、その嬉しさはとてつもなく大きい。
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さ、行きましょう?
そう言うと、シルフィは固まっているヤマトの手を握り、店へ入る。
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――これなんかどうでしょう?
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お客様、お似合いですよ
それからはたくさんの服を見て回った。
ヤマトはそこまでファッションにこだわっていないので、新鮮な気分だ。
なにより、服を選ぶシルフィが楽しそうだったので、それだけで楽しい。
いろいろと試着してみた末、一番しっくり来たのは、上質な毛皮で作られた黒のロングコートだった。
ヤマトがそれを着た自分の全身を見回していると、シルフィがうっとりとした表情で呟く。
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か、かっこいいですぅ
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あ、ありがとう
気恥ずかしくなったヤマトが礼を言うと、店員の女性もうんうんと頷いている。
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ええ。お客様はおとなしめの雰囲気で、整ったお顔立ちですから、魅力が引き立っていますよ
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ど、どうも
店員の褒め言葉は営業トークだと分かってはいるが、それでも嬉しくなってしまうヤマト。
我ながら単純だと思う。
結局、シルフィもこのコートが一番だと言って、それなりの値段にも関わらず買ってヤマトへプレゼントした。
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いつもありがとうございます、ヤマトさん
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ありがとう、シルフィ。一生大事にするよ
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い、一生!? そんな大げさな……
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大げさなんかじゃないよ。すごく嬉しい
それを胸に抱いたヤマトは、自然と涙が溢れそうになり、我慢するのに必死だった。
…………………………
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――あぁっ! ヤマトくんとシルフィだ!
ヤマトとシルフィが服屋を出て、目的地も決めずに話しながら歩いていると、ハンナとばったり会った。
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ハンナじゃないか。今日はなにしてるの?
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ヒマだから散歩してたの。そういう二人はどうしたの? てか、ヤマトくんの手に持ってる高そうな袋はなに?
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ああ、これ? これはね、シルフィが――
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――ダ、ダメ!
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むぐっ!?
ヤマトがコートをプレゼントしてもらったことを言おうとすると、シルフィが慌てて後ろに回って口を押えてきた。
身長差があるため彼女は背伸びして密着する形になり、ヤマトの背中には控えめながら柔らかい丸みが押し当てられる。
それを意識したヤマトの耳は真っ赤だ。
それを見てハンナは猫耳をピンッと立て、ビシッとヤマトたちを指さした。
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ちょっとなにしてるの!? シルフィったら、ヤマトくんから離れなさいよぉ
ヤマトもそうしてくれと内心で叫んでいると、シルフィが耳元でささやいてくる。
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今日のことは内緒にしてください。お願いです
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んっ! んっ!
ヤマトが耳を真っ赤にしながら首を縦に振ると、シルフィはゆっくり体を離した。
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ぷはっ! はぁはぁ……
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二人してなんかあやしいなぁ……まさかシルフィ、抜け駆け――
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――そ、そんなことないですよ! 私たちだって散歩してただけですもの。ね? ヤマトさん
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え? そ、そうだよ
ヤマトは話を合わせようと無理やり笑みを作って頷くが、ハンナは「絶対にあやしいぃ」と言いながらジトーっとした目で見つめてくる。
シルフィとヤマトが気まずそうに目をそらしていると、彼女はふぅと|諦観《ていかん》のため息を吐いた。
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……ま、いっか。こうしてヤマトくんと会えたわけだし。ねぇ、二人はこれからどうするの?
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えっと、そうだねぇ……アクセサリーショップでも見に行こうかなって話してたところなんだ
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アクセサリーショップぅ? それってまるで……
ハンナが再び不機嫌そうに眉をヒクつかせ、シルフィへ目を向けると、彼女は「あっちゃぁ」とでも言うように手で頭を押さえていた。
しかし能天気にニコニコしているヤマトは、自分の失態に気付いていない。
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じゃあ、私も一緒に行く~
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えぇっ?
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なにシルフィ? なにか都合が悪いことでもあるのぉ?
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べ、別に……
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ヤマトくんはいいよねぇ?
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頷くヤマトだが、本当のところはシルフィへのプレゼントのお礼としてアクセサリーを買ってあげたいと思っていたころだ。
だが、この際仕方ないと割り切り、ハンナにも買うことにした。
後でまたもめないために、今ここにいないラミィの分も。
…………………………
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――いらっしゃいませ
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わぁ、凄い! 素敵!
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可愛いらしいお店ですね~
ヤマトたちが入ったのは、アークの経営するウルティマ商会のアクセサリー専門店だ。
女の子には縁がないからと気にしたこともなかったが、今に限って言えば、ウルティマ商会に出資したことがあって良かったとしみじみ思う。
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――あら? ヤマトさんではありませんの
見下すような冷たい眼差しで声をかけてきたのは、相変わらずヒラヒラのドレスで着飾ったスノウだった。
彼女はクエストへ行くとき以外、いつも高級感溢れるドレスを着ており、その種類も毎回変わっているので、アクセサリーに次いでかなりの金をつぎ込んでいるのが分かる。
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こ、こんにちは、スノウ
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げ!?
ハンナがあからさまに顔を歪ませるが、スノウはそれを気にせずヤマトへ挑発的な視線を向けた
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あなたがこういう店にいるのは珍しいですわね。あまりにも場違いですわ。もしかして、彼女たちへのプレゼントかしら?
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ま、まぁそんなところだよ
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せいぜい今のうちに楽しんでおくことですわね。化けの皮が剥がれて、また追いだされる前に
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そ、そうするよ
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……言わせておけばぁ
ハンナが額に青筋を浮かべて拳を握るが、シルフィは彼女の拳に手を置いて首を横へ振る。
そしてヤマトの手を引いてスノウから目をそらさせた。
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ヤマトさん、これ可愛いですよ
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え? あ、あぁ、そうだね。シルフィに似合いそうだ
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ほ、本当ですか!? 嬉しいです……
置いてけぼりになったスノウとハンナは無言でにらみ合い、「「ふんっ」」と鼻を鳴らすと綺麗に並ぶアクセサリーへ向き合った。
それからしばらく、ヤマトは二人の美少女と楽しみながら、スノウは黙々と値段とにらめっこしながらアクセサリーを見て回る。
しかし高級品に目のないスノウですら虜にするとは、さすがはウルティマ商会。
国内で爆発的な人気を得ただけのことはある。
アークやシーアの笑顔が頭に浮かび、ヤマトは少し誇らしかった。
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――うん、これにしよう
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わわっ、可愛いねぇ。ヤマトくん、センスあるぅ
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ヤマトはハンナとシルフィに一番似合うと思った髪飾りを選んだ。
ラミィに渡す分もじっくり考えながら選ぶと、それをカウンターへ持っていく。
すると、店員の中年男性がヤマトを見て丁寧に頭を下げた。
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ヤマト・スプライド様でございますね?
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え? は、はい。そうですけど
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実は、ヤマト様は当商会の元オーナーだからと、特別価格で販売するようにおおせつかっております
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だ、誰から?
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アーク会長からの指示だと、先日シーアお嬢様からうけたまわりました
ヤマトは目を見開く。
先日、少しの間シーアがこの町へ来ていたが、そのとき伝えられたのだろうか。
その話を後ろで聞いていたシルフィとハンナも目を丸くしている。
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ヤマトさん、あなたはいったい……
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――お待ちになってくださいまし!
しかしそこで口を挟んできたのはスノウだった。
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彼だけ特別価格だなんて、不平等じゃありませんの!?
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そう申されましても、当商会の上層部の決定ですので……それに、ヤマト様だけというよりは、そのお知り合いの方も同様の扱いとさせて頂きますが
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それでしたら、私だって彼と同じパーティーでしたもの。私の買う商品も特別価格にしてくださいな
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んなっ!?
それを聞いたハンナが絶句する。
シルフィも信じられないというように目を丸くして固まっていた。
ヤマトととしては、スノウのわがままには慣れっこなので、特に驚きはしないが店員も困ったように眉尻を下げている。
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は、はぁ……ヤマト様がよろしいのであれば
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お願いしますわ、ヤマトさん!
スノウはいつもの勝気な笑みを向けてくる。
理不尽に追いだしておいて、今さら親しげに頼ってくるのはあまり感心しないが、ヤマトは苦笑しながらも頷いた。
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う~ん……仕方ないなぁ――
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――ふざけないでください!
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え?
突然の怒りの声にスノウが声を漏らす。
その声を発していたのはシルフィだったのだ。
両手をギュッと握りしめて褐色の肌を紅潮させ、泣きそうな顔でスノウをまっすぐに見つめている。
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な、なんですの?
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いつも、あれだけヤマトさんのことを見下して、酷いことだってたくさん言っておいて、今さらその優しさにつけ入ろうとするなんて……恥ずかしくないんですか?
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そうよ! 恥を知るべきよ!
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な、なんなんですの……急に割り込んできて。あなたたちには関係のないことでしょう
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大ありですよ! ヤマトさんはもうあなたたちの仲間じゃない! 私たちの仲間なんですから!
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ええ、たとえヤマトくんが許しても、これ以上の好き勝手は私たちが許さないわ!
逆鱗に触れた二人の迫力に、スノウは唇を震わせ後ずさる。
しばらく口をパクパクさせていたがなにも言葉にできず、やがてスノウは顔を真っ赤にして店を出て行った。
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ふぅ……
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……店員さん、お騒がせして申し訳ありませんでした
ハンナは疲れたというようにため息を吐き、シルフィは店員へ頭を下げる。
唖然としていたヤマトも、我に返り頭を下げる。
この店の大事な客を追いだしてしまったのだから。
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……頭を上げられてください
しかし店員は、優しい笑みを浮かべて首を横へ振った。
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こちらこそ、素晴らしい絆を見させて頂きました。ヤマト様は、素敵なお仲間をお持ちなんですね
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ヤマトはハンナとシルフィへ一度目を向けると、弾けるような笑みを浮かべて頷くのだった。
…………………………
一方、とある武器屋では――
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よぉ~マキシリオン。久しぶりじゃないか
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武器屋の店主であるスキンヘッドの大男が朗らかな笑みを向けると、マキシリオンはばつが悪そうに目をそらした。
彼の事情を知ってか知らずか、店主は頬を緩ませながら語りかける。
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お前、最近あんまり来ないし、来たとしても羽振りが悪いぞ?
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最近のソウルヒートはあまり戦績が良くないって聞くが、本当なのか?
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おぉ、怖い怖い
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違うって。上手くいってないなら、最新の武器を紹介しようと思ってな
そう言って彼が持ってきたのは、武骨なフォルムの大剣と長剣だった。
見た目こそシンプルで飾り気がないものの、刀身は荒々しさを象徴するようにぎらつき、武器全体から覇気を放っているかのような迫力があった。
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これすげぇんだぜ。見た目の割に軽いんだが、切れ味が段違いで、しかも全然劣化しない
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100万ウォルってとこだな
店主がニタァと笑みを浮かべて告げる。
いくら素材の必要ない完成品で、劣化頻度も少ないとはいえ、かなりの額だ。
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は? ぼったくりすぎだろ。まけてくれや
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う~ん……今までのあんたなら、よく武器を買ってくれてたから良かったんだが、今のあんたを見るとなぁ……
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お、落ち着けって!
マキシリオンが店主へつかみかかろうとしたそのとき、新たな客が入って来た。
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お? いらっしゃい!
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マキシリオンが舌打ちして振り向くと、そこにいたのはラミィだった。
彼女がヤマトの仲間だとすぐに思い出したマキシリオンは、彼女を忌々しげににらみつけると、ラミィは一瞥しただけでカウンターのほうへ歩き出した。
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ふんっ、調子乗りやがって
マキシリオンはそう吐き捨て、外へ向かって歩き出す。
その背後で、店主がラミィへまた新商品の紹介を始めた。
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――高いですね。もう少し安くはなりませんか?
自分と同じことを言う彼女に、マキシリオンが「バカが」と毒づくが、
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もちろんだよ。あんたらはお得意様だから、努力させてもらうぜ
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ありがとうございます!
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……ちょっと待て
店の扉へ手をかけていたところで、マキシリオンが背後を振り返った。
店主は「聞いてたのか……」と苦笑し、ラミィは険しい表情を浮かべて彼を見据える。
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どういうことだ!? 俺にはダメで、こいつらみたいなザコは値引くってのか!?
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しかし、彼女たちは最近すごく頑張ってるようだし、うちの店も頻繁に利用してくれるからなぁ
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待って
憤怒の表情を浮かべながら足を踏み鳴らし歩く彼の前へ、ラミィが立ちふさがった。
彼女は気丈ににらみ返している。
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あなた何様のつもり? 武器を買うだけのハンターなんだから、店に迷惑をかけるな
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なんだと、てめぇっ!
マキシリオンは迷わず拳を突き出し、ラミィの顔面へ打ち込む。
しかし彼女は、両腕をクロスして顔をかばい、白銀の籠手で受け止めた。
その瞬間、マキシリオンの顔が驚愕に変わる。
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バ、バカなっ!? てめぇなんかが、なんで……
ラミィの装備していた防具が、自分のものよりも明らかにランクが上だったのだ。
彼女もそれに気付き、彼の目を見据えて言い放つ。
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仲間を軽く見てきた、あなたたちの自業自得だよ
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……クソがっ!
なにも言い返せなくなったマキシリオンは、血がにじむほど拳を握りしめ、店を出て行くのだった。