#31 魔物を内包する者【滅亡世界の魔装設計士 第五章】

第五章 怨嗟の奔流

 

 

鵺が放った高熱量の光線は、その射線上を無慈悲に焼き払っていた。

地面の魔法陣もかき消え、深い溝が出来ている。

シュウゴはメイを降ろすと、彼女をかばうように前へ立った。

デュラもなんとか攻撃から逃れ、体勢を立て直している。

 

メイ

お兄様、さっきのはもしかして……

シュウゴ
ああ、間違いない。なぜあのサイズなのかは分からないけど、目玉は全てイービルアイのものだ

 

鵺の左腕にイービルアイの目玉が密集していたからこそ、あの短時間の充填でビームアイロッドの最大火力を超える光線を放てたのだ。

鵺は特に動揺した様子もなく漆黒の左腕を外套の内側へ引っ込める。

 

どうやら貴様らを見くびっていたようだ。妖刀『反骨鬼はんこつき

 

次は右腕を外套から出す。今度の腕は明らかに人間のものだ。

どこに隠していたのか、禍々しいまでの瘴気を纏った刀を握っていた。

一番最初に動いたのはデュラ。

 

デュラ

 

盾を突き出し鵺へ突進する。

妖刀を振り下ろした鵺の斬撃を受け止め押しのけると、ランスを無防備な鵺の左胸へ突き出す。

 

流れるような技に、鵺も一本取られたかのように見えた。

しかし離れていたシュウゴには見えていた。鵺の外套の背の部分が大きく盛り上がっていたことに。

そこから尾のような細長いものが勢いよく飛び出し、ランスの穂先を受け止める。

 

シュウゴ
あれは……サソリの尻尾か?

 

そのゴツゴツした尻尾はダークブラウンの光沢を放ち、尾の先はサソリの尻尾に酷似した形状をしていた。

デュラと鵺の力は均衡していたが、それもすぐに終わる。

突如、鵺の左肩に着いていたヤギの頭蓋骨の口が蒼い炎を溜めだしたのだ。

それはまさしくカオスキメラの攻撃。

 

シュウゴ
くっ、デュラ!

 

シュウゴがバーニアを噴射し鵺へ急接近したが間に合わず、デュラは蒼炎のブレスで吹き飛ばされた。

間髪入れずシュウゴが鵺に斬りかかる。

 

――キイィィィンッ!

 

しかし鵺は、冷静に妖刀で受け止めていた。

鵺と斬り合いながらシュウゴが叫ぶ。

 

シュウゴ
なぜだ!? お前はなぜ、他の魔物たちの力を持っている? ここで一体なんの研究をしていたんだ!?

答える義理はない。ここで死ね

 

サソリの尾を振り下ろされるが、シュウゴはバーニアを噴射してスライドし回避。

さらにショックオブチャージャーで足に稲妻を溜め、一時的にスピードを上げる。

大剣を尻尾に受けられ、妖刀をアイスシールドで受け、両手が塞がったところで獅子の火炎ブレスを放たれるが、横への瞬発噴射で華麗に回避。

 

シュウゴ
メイ、今だ!

 

シュウゴが叫んだ直後、最大火力の光線が放たれた。

その狙いは鵺の胸部。

 

喰らえ反骨鬼

 

鵺が淡々と呟いた瞬間、妖刀が妖しく揺らめいた。

そして、その刃で真正面からレーザーを受け止め光を拡散させる。

それでもレーザーの火力が強く、妖刀の刃が溶ける方が先のはずだった。

だが妖刀の柄に鵺の指が溶け込み体の一部と化すと、次第に妖刀の禍々しいオーラが増大していき、最終的にはレーザーを完全に受け切った。

 

シュウゴ
なんだあの刀は……

反骨鬼。使い手の命を吸い取り力を増す妖刀だ。だから――使った命の分、貴様から補充させてもらうぞ――

 

――グギャオォォォォォン!

 

鵺の体内からおぞましい野獣の叫び声が発され、外套の内側から黒くドロドロの粘液を滴らせた顔のない魔獣が飛び出した。

それは首だけが鵺の内側から伸び、大きな口を開けてシュウゴを飲み込まんとしていた。

あまりの急展開に付いて行けず呆然としていたシュウゴは反応が遅れる。

 

シュウゴ
しまっ――

 

慌てて右へバーニアを噴射したものの、間に合わず右腕を肩からまるごと食われた。

同時に右脇腹も食いちぎられる。

 

 

シュウゴ
ぐわあぁぁぁぁぁっ!

 

シュウゴは食われた腹を左手で押さえ、絶叫し床を転がった。

 

メイ

お兄様ぁぁぁぁぁ!

 

メイが再度杖に充填し始めるが、許す鵺ではない。

いつの間にか鵺は三本の尻尾を地面に刺しており、メイの足元が砕けると同時に地中から襲いかかった。

 

貴様も死ね

メイ

っ!

 

三本の尻尾がメイに巻き付き強く締めあげると、その腹に尻尾の先を突き刺した。

尻尾はメイの体内に猛毒を流し込む。

 

デュラ
!!

 

地を蹴りデュラが鵺に跳びかかるが、鵺は見向きすらしない。

デュラが至近距離まで迫った次の瞬間、鵺の外套から無数の蛇が飛び出し、デュラを壁際まで押し飛ばした。

そのまま壁に押し付ける。

 

メイを縛り上げ、デュラを壁に押し付けている鵺はシュウゴへ目を向けた。

 

貴様、何者だ? 今まで喰らってきた人間とは違う味をしている

シュウゴ
俺は……ただの、人間だ……

そうか。なぜ古い記憶が封印されているのか知らないが、もしかすると面白いことが分かるかもしれない……だが、他はいらん

 

鵺は、壁に押し付けられ無様にもがいているデュラへ目を向けると、再び漆黒の腕を突き出した。

 

シュウゴ
や、めろ……

案ずるな。あの少女同様、もう一人も今から殺してやる。その後に貴様も食われるのだから文句はあるまい

 

鵺が厳かに告げると左腕の目玉が一斉に目を見開く。そしてそれぞれが光を収束し始め、眩い白光が空間を塗りつぶす。

 

だが鵺は気付いていなかった。シュウゴの全身に雷が帯電していることに……いや、気付いているのかもしれないが、とるに足らないことだと無視しているのかもしれない。

ほんの僅かな充填時間。それだけ与えられれば十分だ。

 

――バュゥゥゥゥゥンッ!

 

シュウゴの左腕が唸り勢いよく飛び出す。まっすぐに進みブリッツバスターを掴んだ。

無駄なあがきだ

シュウゴ
(それはどうかな?)

 

シュウゴは人知れず不敵な笑みを浮かべ、全身に蓄積した雷を左腕の糸を通しブリッツバスターに流し込む。

そして――

 

 

シュウゴ
うおぉぉぉぉぉっ!

 

――ズバァァァァァァァァァァンッ!

 

雷鳴を響かせながら、翠玉すいぎょくに輝く斬撃がブリッツバスターから放たれる。

鵺は咄嗟に身構えるが狙いはその左腕と無数の蛇。その全てを一撃の元に切断した。

なに?

 

光が止んだときには鵺の目の前には無数の蛇と左腕が落ちていた。

束縛から開放されたデュラがすぐさまランスの穂先を鵺へ向ける。

 

デュラ
……
メイ

……退いてください

 

さらに鵺の側方からメイが杖に光を収束させながら忠告した。

鵺は初めて驚きの表情を見せる。

 

なぜ猛毒を打ち込んだにも関わらず動ける?

シュウゴ
教える義理はない、だろ?

 

シュウゴが痛みを我慢しながら顔を上げ、意趣返しとばかりに不敵な笑みを見せた。

鵺は目線を下げ逡巡した後、

 

いいだろう。次に会うときは記憶を取り戻しておけ。今度こそ喰らってやる

 

そう告げて妖刀を外套の内側へ引っ込め、入口とはまた別の扉から去って行った。

 

 

鵺の気配が遠ざかって行くのを確認したメイとデュラは、急いでシュウゴへ駆け寄った。

 

メイ

お兄様! しっかりしてください!

シュウゴ
はははっ、今回はちょっと無茶しすぎたな

 

シュウゴが力なく笑う。メイはアイテムポーチから他のアイテムがこぼれおちるのも構わずポーションを引っ張り出し、シュウゴに飲ませた。

痛みが和らぎ表情を緩ませたシュウゴは深いため息を吐く。

 

シュウゴ
ありがとう。メイは大丈夫なのか? 毒の影響は?

 

アンデットのメイが毒ごときで死なないことぐらいよく分かっていたが、悪影響はないかと心配だった。

 

メイ

毒によるダメージはないですが、後で体から毒を吸いださないといけません。それが原因で体が腐っては元も子もないので

シュウゴ
それは大変だ。もし一人では厳しいならハナメに手伝ってもらえるよう頼んでみるよ
メイ

大丈夫ですよ。お兄様はご自分の心配だけなさってください

デュラ
……

 

デュラがメイに賛同するよう首を縦に振ると、シュウゴの左腕をしっかり本体に嵌め、肩を貸して起こした。

 

シュウゴ
(いつもこんなのばっかだな)

 

シュウゴは苦笑し、鵺の隠れ家で役に立ちそうなものだけ回収するとカムラへ戻った。