#23 新たな仲間【半妖の陰陽道 第五章】

第五章 龍二の百鬼夜行

 

 

夕方の田んぼ道。

退院した龍二は桃華と一緒に本邸へ歩いていた。

なぜ桃華まで一緒に来るのかと問えば、雪姫たちと一緒に龍二の退院を祝いたいのだとかなんとか。

雪姫から今日は鍋だと聞いたらしく、律儀に食材を買って来ている。

実際に持っているのは龍二だが……

 

龍二が入院している間の塾での授業内容など聞きながら歩いていると、気付いたときには本邸へ辿り着いていた。

いつものように通用口から入り、敷石の上を歩いていくと、雪姫が玄関へ出て来て出迎えてくれる。

 

雪姫

龍二様、お帰りなさいませ。よくぞご無事で

龍二
ただいま、雪姫。心配かけてごめん

 

龍二がそう言って頭を下げると、衝立に複数の目玉が出現した。

そちらへ顔を向け微笑むと、目々連は嬉しそうに目を細める。

 

雪姫

本当にみんな心配していたんですよ

 

雪姫は目の端に涙を溜めて声を震わせていた。

それは咎めるような雰囲気ではなく、心から安堵して喜んでいる様子だ。

龍二は温かさを感じると共に、心配かけたことを申し訳なく感じる。

 

雪姫

さあ、今日は龍二様の退院祝いです。お食事を今準備しているところですから、居間でおくつろぎになっていてください。桃華さんも、よくおいでくださいました

 

雪姫はそう言って微笑み、すぐに棚からスリッパを出す。

靴を履き替える前に、龍二が食材の袋を雪姫へ差し出し、桃華が言った。

 

桃華

色々持ってきたので使ってください

雪姫

ありがとうございます。ちょうど人数が増えたところだったので、すごく助かります

龍二
?

 

龍二は首を傾げる。

人数が増えたというのは、龍二、雪姫、鈴の三人に桃華が加わったからだろうか。

いくら桃華でも、そこまで食い意地は張っていないはずだと思った。

しかし二人は、気にせず先へ行こうとするので、とりあえず後を追う。

すると、廊下に出たところで鈴の可愛らしい声が聞こえた。

 

 

鈴

もぅ、遅いよー。鈴の分はとっくに終わってるんだからね!

 

なんだか不服そうだ。

よくよく見ると、バケツの上で雑巾をしぼる男へ、鈴が文句を言っているようだった。

しかし彼女の体が重なっているせいで、男の顔はよく見えない。

鈴は近くまで歩いて来た龍二に気付き、顔をほころばせる。

そして縞々の二―ソックスを履いた足を弾ませ、駆け寄って来た。

 

鈴

龍二さまー、お帰りなさーい!

 

はしゃぐように声を弾ませ、抱きつこうと両手を広げる鈴。

しかし桃華が俊敏な動きで龍二と鈴の間に立った。

 

桃華
はいはい

 

鈴は桃華に抱きつく形となり、桃華は子供をあやすようにツインテールのピンク髪を撫でる。

 

鈴

ぶーっ、桃華お姉ちゃん、どうして邪魔するのぉ?

桃華

鈴ちゃん、女の子はお淑やかにしないと。過剰なスキンシップはいけません

 

鈴は頬を膨らませ桃華から体を離す。

すると、雑巾をしぼっていた青年が遅れて歩み寄って来て、龍二は目を見開いた。

 

龍二
修羅!?

 

病院を抜け出して以降、行方知れずになっていた武戎修羅がそこにいた。

彼は龍二と目が合うと、気まずそうに目を逸らす。

どういうことか分からず、横にいた雪姫へ目を向けると、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

雪姫

龍二様がせっかく帰って来るのですから、修羅さんと鈴に屋敷の掃除を頼んでいたんです

鈴

でもねぇ、修しゅうちゃん手際悪いから、全然進んでないんだよー

龍二
桃華

「「しゅ、修ちゃん!?」」

 

龍二と桃華が驚愕の声を重ねる。

こんな小さい女の子にあだ名をつけられ、修羅が怒るかと思いきや、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしただけだ。

信じられないことが起こっている。

龍二はビシッと手の平を前へ突き出し叫んだ。

 

龍二
ちょっ、ちょっと待ってくれ!
雪姫

はい?

龍二
そもそもどうして修羅がここにいるんだ!?

 

再会できた喜びはひとまず置いて、状況を整理しようとする。

すると修羅は「は?」と眉をしかめた。

なんだか不機嫌そうだ。

 

修羅

お前が仲間になれって言ったんだろうが。それとも、人の姿に戻ったら記憶を失うのか?

龍二
いや、確かに仲間になってほしいとは言ったけど……

 

もちろん龍二も覚えている。

それはまぎれもない本心なのだから。

しかしなぜか、話がかみ合っていない気がした。

すると雪姫が頬に手を当てて首を傾げる。

 

雪姫

私も修羅さんからそう聞きました。龍二様が修羅さんを『百鬼夜行に加える』と言ったと

龍二
……ん?

 

龍二の目が点になる。

なにか不穏な言葉が聞こえた。

すると鈴もうんうんと頷く。

 

鈴

でも姫ちゃんてば、龍二さまが認めても私はまだ認めないとか言って、修ちゃんに襲いかかったんだよー。薙刀なぎなた振り回して、怖いよねー

雪姫

鈴! 余計なこと言わないで!

 

いつもはおっとりしている雪姫が珍しく、慌てて大声を上げた。

透き通るような真っ白な肌が赤くなっている。

鈴が「えぇーやだー」と言ってそっぽを向くと、雪姫は凄みのある笑みを作り修羅へ顔を向けた。

 

雪姫

そんなこと、ありませんでしたよね? 修羅さん?

修羅

っ! ……は、はい、姉あねさん……

 

修羅はビクッと肩を震わせると、こくりと頷いた。

顔を青くして汗をだらだらと流し、頬を引きつらせている。

いったいなにがあったのだろうか……

 

ひとまず龍二は話を戻す。

 

龍二
ちょっと待て。俺は確かに仲間になってくれと言ったけど、百鬼夜行の話なんてしてないぞ
修羅

は? 百鬼夜行の主の息子だって言う、お前が仲間になれって言ったんだから、その意味は一つだろ

龍二
んなっ!?

 

龍二は衝撃を受けたようにのけ反る。

どうやら盛大な勘違いをされてしまったようだ。

修羅の頭の中では、『仲間=百鬼夜行』というように変換されてしまっている。

龍二は頭を抱えた。

 

桃華

……待ってください

 

だがそこで救世主が現れる。

修羅は、口を挟んできた桃華へ目を向けると睨みつけた。

 

修羅

嵐堂か、なんか文句あんのか?

桃華

大ありです! 龍二さんの手助けをするだけならまだしも、百鬼夜行だなんて、私は聞いてません!

修羅

そりゃお前には言ってないからな

桃華

とにかく、私はまだあなたを龍二さんの側に置くべきとは認めていませんから!

 

龍二はさらに頭を抱えていた。

桃華の言っていることがよく分からない。

龍二は百鬼夜行の話は勘違いだと言いたいのに、論点が微妙にズレている。

しかし修羅も、売られた喧嘩は買う主義のようで、眉をひくひくと怒りに震わせていた。

 

桃華

武戎くん、もう一度勝負です! もしあなたが勝てば、龍二さんの百鬼夜行入りを認めます。私が勝てば、私が龍二さんの百鬼夜行に加わります!

 

龍二はずっこけそうになった。

雪姫はのんきに「人間を龍の臣に入れるのはちょっと……」なんてことを言っている。

しかし武戎は頬を吊り上げて床に置いていた刀をとった。

 

修羅

上等だ

桃華

この間のようにはいきませんよ

 

桃華は不敵な笑みを浮かべ、形代を握る。

銀狼を出す気だ。

一触即発の雰囲気に、障子に現れた目々連も不安そうに見守っている。

龍二が慌てて止めようと足を踏み出すが、鈴が先に声を上げた。

 

 

鈴

二人とも、ダメだよ!

 

彼女は小さな体で桃華と修羅の間に割って入る。

 

桃華

り、鈴ちゃん?

鈴

喧嘩しちゃダメ!

 

いつもと違い真剣な表情で言い放つ彼女に、桃華は「うっ」と怯む。

すると、鈴は修羅のほうを振り向き、彼にも強く言った。

 

鈴

修くんもダメ!

 

龍二は修羅の気性の荒さを知っているため、ハラハラするが、彼の反応は意外なものだった。

 

修羅

すまねぇ、鈴先輩……

 

なんと、しょんぼりと肩を落とし謝ったのだ。

雪姫のことを「姉さん」と呼んでいたことといい、いつの間にか百鬼夜行内の力関係ができていたようだ。

雰囲気的に、龍二も百鬼夜行の話は修羅の勘違いだと言いづらくなっていた。

雪姫が困ったように眉尻を下げ、龍二へ「どうしましょう?」と目で訴えてくる。目々連も潤んだ瞳を向けて来て「止められるのは龍二様しかいない」と言っているようだ。

 

龍二
……はぁ、分かったよ

 

場を収束させるため、龍二はため息を吐いて告げる。

 

龍二
……修羅、よろしく頼むよ
修羅

……おぅ

 

その瞬間、武戎修羅は龍二の百鬼夜行・龍の臣に加わったのだった。