第三章 闇に眠る忠誠心
その翌日、シュウゴは早くに目が覚めた。
廃墟と化した村で遭遇した、謎の少女が気になって熟睡できなかったのだ。
カトブレパスの毛皮で作られた掛け布団をのけ、起き上がる。
デュラは部屋の隅で膝を立て下を向いており、まだ目覚めていないようだ。
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まだ陽も登っていない時間帯だ。
デュラが起きる前にと、シュウゴは寝惚けまなこで支度を済ませ、銭湯へ行く。
銭湯は歩いて三分の場所にあり、二十四時間開いている。
浄化装置に魔力を注げば水が綺麗になり、加熱装置に魔力を注げば炎魔法で湯を沸かすことが可能。
使用料は月々の家賃に含まれているため、いつでも好きなときに利用できるのだ。
内装は綺麗というわけでもなく、浴槽はそこまで広くないが、利便性が最大の特徴だった。
浄化装置のおかげでクエストでかかった状態異常にも効く。
朝風呂でゆっくりと、昨日の出来事を脳内整理したシュウゴは、家へ戻った。
部屋に入った瞬間、ガシャンッ! と大きな物音が突然響く。
シュウゴがびっくりして見回すと、すぐにデュラが目の前に飛んできた。
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どうやら、起きたら主の姿がなくて慌てていたらしい。
シュウゴは銭湯に行っていただけだと説明してデュラを落ち着かせると、ゆっくり身支度し早朝の広場へ向かった。
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広場の掲示板には、やはり昨日遭遇した少女について書かれていた。
「廃墟と化した村での目撃情報が相次ぎ、臨時で専門の討伐隊が結成された」と。
シュウゴは胸騒ぎがしていた。
今行動を起さねば後悔する、そんな予感めいたものが脳裏を走る。
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デュラへ振り向くと、彼は深く頷いた。
まるで、シュウゴの心の内が分かっているかのようだ。
シュウゴはすぐさま紹介所で適当なクエストを受注し、廃墟と化した村へ向かうのだった。
シュウゴとデュラは昨日少女が逃げ去って行った、村の中心部を目指し猛然と駆けて行く。
ユリの話では、討伐隊は既に出動しているようだ。
彼らの目的は、少女の正体を突き止めることか、捕縛することか、それとも――
今は風化した無人の市場通り。
物悲しく静かな風の吹く中、クラスCモンスターたちの死骸がところどころ投げ出され、アビススライムが群がっていた。
恐らく、討伐隊が少女を探索する道中で倒したのだろう。
二人がアビススライムを避けながらしばらく進むと、標的はすぐに見つかった。
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――ひっ……
倒壊した建物の狭間にある路地で、六人の討伐隊員が一人の少女を壁際に追い込んでいた。
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シュウゴは頬を引きつらせる。
似たような光景を同人誌で読んだことがあった。
しかし彼らはよこしまな感情など微塵も見せず、殺気立っていた。
騎士四人はそれぞれ剣や槍を構え、その背後で二人の魔術師が杖を掲げている。
対する銀髪おかっぱの少女は、尻餅をつき目尻に涙を溜めて震えている。
これではどちらが悪者か分からない。
シュウゴが立ち止まって様子をうかがっていると、一人の若い男が前に出た。
レザーアーマーという騎士よりハンターに近い装備の彼は、以前シュウゴと共にカオスキメラと戦った討伐隊員『クロロ』だった。
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君、悪いようにはしないから、お兄さんたちと一緒に来てくれないか?
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クロロ、なにをっ!?
アゴに短く白い髭を生やした中年の騎士が声を上げる。
隙のない佇まいに思慮深さを感じさせる表情から、この隊の隊長だと予想できる。
だがクロロは、隊長の言葉を無視し少女の肩に優しく触れた。
なんとか穏便に済まそうとしているのだろう。
しかし、少女は肩に手が触れた瞬間ビクッと過敏に反応し、
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い、嫌ぁっ!
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っ!?
クロロを両手で突き飛ばした。クロロはまるでサイクロプスに殴り飛ばされたかのように凄まじい勢いで後ろへ吹き飛び、背後で静止していた魔術師の一人にぶつかる。
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うわぁっ!
二人は勢いよく地面を転がった。
当の少女は「え? うそ?」と目を白黒させながら自身の手の平を凝視し、自分でも想像以上の力が出たことに驚いているようだ。
それを見た隊長が険しい眼差しを彼女に向ける。
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逃走するときの脚力といい、この腕力といい、やはり人間ではないか。それに、魔物たちの標的にならないことこそ、彼女が凶霧の魔物であるなによりの証拠。今ここで仕留めねば、いつか後悔することになる
彼は厳かに呟くと左手を頭の上まで上げた。
同時に左右の騎士が槍の穂先を少女へ向け、健在なもう一人の魔術師が杖に魔力を集中し始める。
そして、討伐隊長はその手を下した。
左右の槍の穂先が少女の胸目掛けて突き出され、炎の魔球が飛来する。
少女は目をギュッとつぶり頭を抱えると必死に叫んだ。
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嫌ぁぁぁぁぁ!
これで、謎の少女は討伐完了――する、はずだった。
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……なに?
突き出された槍は少女へ届く前に宙で静止し、炎魔法も小さく爆散した。
攻撃を防いでいたのは、蒼い半透明の盾。
少女の目の前に突然、黒い籠手が現れ氷の障壁を展開したのだ。
その腕の中心からは太くも細くもない、白い糸の束が棒状に伸びていた。
その籠手は役割を終えると、本体へと戻っていく。
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高速で糸を巻き取り、左腕を元の状態に戻し穏やかに呼びかけたのは、いつの間にか彼らの右側面に立っていたシュウゴだった。
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……なんのつもりだ?
シュウゴへ目を向けた討伐隊長が眉をしかめ怒気を発する。
周囲の隊員たちも警戒心と苛立ちをあらわにし、シュウゴを睨みつけた。
シュウゴは剥き出しの敵意に怯まず気丈に答える。
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恰好から察するに、ハンターか。お前も今のを見ていただろう? この少女の本性は魔物だ。一体なにを待つ必要がある?
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ち、違う……
少女は悲痛な涙を流しながら「違う、違う」と、か細く呟いている。
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彼女の正体なんて俺には分かりません。でも、年端もいかない少女を大人が寄ってたかって殺そうとするなんて、見過ごすわけにはいきません
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そんなものは偽善だ
シュウゴと討伐隊長は静かに睨み合う。
するとようやくクロロが立ち上がった。
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あ、あんたはあの時の!
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クロロ、お前の知り合いか?
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い、いえ。知り合いと言うほどではありませんが、以前カオスキメラの撃退に尽力してくれたハンターです
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なに? 噂に聞く赤毛のハンターか。どうりで見ない装備なわけだ
隊長は少し興味を持ったように、シュウゴの全身を見回す。
やや緊張感が緩まったのを感じたシュウゴは、ゆっくり少女に歩み寄った。
少女は怯えたように震えているが、逃げようとはしなかった。
シュウゴが守ってくれることに期待しているのかもしれない。
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とにかく、彼女はカムラに連れて帰りましょう。なにかの手がかりだって持っているかもしれませんし
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ダメだ。もし町の中で彼女が暴れたらどうする? それで死傷者が出てもみろ。その責任は一体誰がとると思っているんだ!?
隊長は有無を言わさず両手剣を中断に構えた。
長さは通常の騎士が持つロングソードと同等だが、刃幅はその二倍はあり重量感がある。
討伐隊の隊長が主に使う『クレイモア』だ。
シュウゴは内心舌打ちした。
この男はなにかあったときのことを恐れているのだ。
責任の伴う立場である以上仕方のないことだが、これでは話が先に進まない。
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(くそっ、この世界で保身なんてしても先は見えないというのに……
他の騎士二人も槍を構え、魔術師二人は後方で魔力を溜め始める。
クロロも眉を寄せ複雑そうな表情をしたが、剣を上段に構えた。
一触即発という空気だ。
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これは最終通告だ。そこをどけ
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嫌です
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……かかれぇっ!
隊長がついに指示を出し、騎士たちは少女をかばうシュウゴへと武器を振るう。
小さく悲鳴を上げて頭を抱える少女を守るべく、シュウゴは背の大剣に手をかけた。
しかしそれを抜く前に、デュラが間に入った。
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ヒュンッ! と鋭い風切音を響かせ、ランスを真横に薙ぎ払う。
その鋭く細い一閃は、騎士二人の胸当てを強く打ち付け突き飛ばし、隊長は咄嗟にクレイモアの刀身で防御するも反動で後退した。
彼らの後方で駆け出していたクロロもすぐに足を止める。
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こいつぅっ!
後方から大きな炎の塊が飛んでくるが、デュラはアダマンシェルで防ぎ切った。
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ありがとうデュラ、助かったよ
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…………
シュウゴが目の前で盾を構えているデュラの肩をポンポンと軽く叩くと、彼は横顔をシュウゴへ向けゆっくり頷いた。
シュウゴはすぐに膝を折って怯える少女に目線を合わせると、穏やかな表情で微笑みかける。
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君、大丈夫かい? 怪我はない?
少女は潤ませていたその紅い瞳でシュウゴの目をジッと見つめると、こくりと小さく首を縦に振り、小さくて可憐な口を開いた。
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……あっ、ありがとぅ……ございます……
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……どういたしまして
少女がしっかりと言葉を発したことに驚いたシュウゴだったが、表情に出さないように微笑んだ。
すぐに立ち上がると、討伐隊の方へ向く。
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聞け、ハンターよ。これは明らかな反逆行為だ。領主ヴィンゴール様の直轄である我々に敵対するということは、カムラの敵に回るということだ。覚悟は出来ているのだろうな?
隊長が険しい表情で告げると剣を上段に引き、剣先をシュウゴへ向けた。
デュラも負けじとシュウゴたちを守るように盾を構え、ランスの穂先を隊長へと向ける。
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待ってデュラ
シュウゴはデュラの横から一歩前に出て、隊長と向き合った。
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今ここで争っても、互いに無意味な損害を出すだけです。それに俺たちは討伐隊を敵に回したいわけじゃない。ですので、俺たちを領主様の元へ連れて行ってください。弁明はそこでします
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なにを言うかと思えば……ふんっ、そんなことができるわけないだろう。我々に牙をむいたのだ。お前たちが領主様に危害を加えないという保証がどこにある?
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違います。俺たちは攻撃されたから身を守ったに過ぎません。これは正当防衛であって敵対行為ではありません。自分の身に危険が迫らない限り、武力を行使しないことを誓います。ですから、俺たちハンター二人とこの少女をどうか領主様の元へ
シュウゴの必死な提案に、隊長は眉を寄せて黙り込む。
判断を迷っているのだろう。
実力はシュウゴたちの方が上。
であれば、このまま敵に回すよりも一旦彼らの要望を聞き入れ、もっと上の人間に判断を仰ぐべきではないかと。
沈黙を破ったのはクロロだった。
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隊長、彼は討伐隊を援護しカオスキメラを撃退したことで、ヴィンゴール様も少なからず関心を抱いています。それに、バラム会長の推薦でハンタークラスも上がったそうです。ここは一旦カムラに連れ帰った方がいいのではないでしょうか?
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……分かった。では彼らが逃げないようにしっかり見張っておけ。こんなところに拘束具などないからな
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はい
隊長はシュウゴに一言「ついて来い」と言うと、きびすを返した。
交渉はなんとか成立したようで、シュウゴは安堵に胸をなでおろす。
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クロロさん、ありがとうございました
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礼なんていらないさ。助けてもらったのは俺も同じだからな。あのとき、結局『オガ』は死んじまったが、最期に家族や友人たちと会わせてやることができた。あんたのおかげだ
シュウゴはなんだか不思議な感覚におちいった。
悲しい話のはずなのに、どこか満たされているような例えようのないふわふわとした気持ちだ。
クロロは表情を切り替え、シュウゴに討伐隊の後ろを行くよう告げる。
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さあ、急いでくれ
シュウゴは頷くと、うずくまっていた少女の手を握り、ゆっくりと立たせてやる。
気品を感じさせる上質な衣服は転んだりしたのか、ところどころ砂で汚れてしまっていた。
少女は心細そうにシュウゴの左手を握り返す。
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大丈夫だよ。俺を信じて
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……は、はい……
少女は蚊の鳴くような小さな声で返事をすると、シュウゴと共に歩き出す。
シュウゴは、カムラへ戻るまでに少女から様々なことを聞き出していた。
あるとき突然、木々の枯れ果てた森の奥で目覚めた彼女は、あらゆる記憶を失っていたという。
名前や家族、どこに住んでいたかなども。
ただ、元の種族は人間であるという確信だけはあったらしい。
気が狂いそうなほどにドス黒い霧に包まれたその場所は、どうやら墓地だったようだ。
彼女は急に怖くなり、無我夢中で駆け抜け、様々な土地を彷徨った末に、この地まで辿り着いた。
シュウゴは彼女が元人間であることを認めたうえで、今の体の特徴を訪ねた。
返ってきた回答はこうだ。
腹が減らない、味覚がない、痛覚がない。
自分で思っている以上の身体能力を発揮してしまう。
そして、胸に手を当てても心臓の音が聞こえない。
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アンデットか……
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はい?
シュウゴの呟きに少女は首を傾げる。
そのおっとりとした目で寄り添って歩いているシュウゴを見上げていた。
シュウゴは慌てて「ううん」と首を振ると笑みを作った。
彼女の特徴はシュウゴがゲームでよく知るアンデット族に近かった。
とすると、彼女が人間の姿をしていることにも納得できる。
おそらく、かつてはどこぞの貴族の娘で凶霧に飲み込まれて命を失ったか。
身体能力が高いのも、人間としての脳のリミッターが外れてしまっているからだろう。
デュラ同様、状態異常は無効化できるはずだ。
難しい顔をして歩きながらも、自分を見つめるシュウゴに少女は首を傾げる。
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……お兄さま?
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……んんっ!? お、お兄さまぁっ!?
突然、上目遣いの美少女がとんでもないことを口走ったので、シュウゴは素っ頓狂な声を上げた。
不審げに思ったのか、先頭を歩いていた討伐隊長が振り向く。
シュウゴは慌てて平静を取り繕い、小声で少女に尋ねた。
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お、お兄さまっていうのは、ど、どういうことなんだ?
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へ? あっいえ、そのぉ……
少女はようやく自分の言ったことを自覚したのか、バッと顔を伏せた。
耳が真っ赤になっている。
肌が白いため尚更よく分かる。
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(か、可愛い……)
シュウゴは危うく心を奪われるところだった。
だが自分はロリコンではないと我慢した。
二十二歳の青年が十五歳くらいの少女に惚れるなど、あってはならないと。
そんなシュウゴの葛藤などつゆ知らず、少女は恥ずかしそうに俯いたまま、ボソボソと答える。
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……私には尊敬していた兄がいた、そんな気がするんです。記憶ではなく感覚的なものですが、確信しています。それでもし兄がいたら、シュウゴさんみたいな優しい人なのかぁと……
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ぐ、ぐふぁっ!
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ど、どうしたんですか?
シュウゴのハートにクリティカルヒットした。
無自覚な年下の少女にガンガン心を揺さぶられ、本能が「この子は危険」だと警鐘を鳴らしている。
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ニヤけそうな頬の筋肉を必死に固定し、少女に言葉を返せないシュウゴの代わりに、デュラが少女の肩に優しく手を置いた。
少女がハテナマークを頭に浮かべながらデュラへ目を向けると、彼は静かに首を横へ振った。
少女はますます困惑するが、とりあえず口を噤んでくれたのだった。