第二章 快進撃
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魔獣の荒々しい咆哮が森中へ響き渡る。
湾曲した二本の角を持ち、獰猛な牙を光らせる魔獣、その名はべヒモス。
筋骨隆々な四肢に紫の剛毛をまとうそれは、並のハンターでは太刀打ちできない凶暴なモンスターだ。
それに立ち向かうのは、トリニティスイーツの三人。
先頭のラミィは、白銀に輝く長剣を両手で握ると、敵を見据え攻撃モーションを見極める。
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はぁっ!
べヒモスの繰り出す爪をバックステップで回避。
地面に叩きつけられ、隙のできたその腕へ斬りかかる。
――ズバンッ!
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強靭なミスリルの刃が肉を裂き、荒々しい悲鳴が漏れた。
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双剣を手にハンナが横から回り込むが、それに気付いたべヒモスは、その場で回転し尻尾で薙ぎ払う。
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しかしハンナは、間一髪のところで跳び、べヒモスの頭上高く舞い上がった。
あまりに軽くとてつもない跳躍力に本人も驚く。
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にゃっ!? こ、この『飛翔のブーツ』、半端じゃないよ!
それは貯まった資金とコツコツ集めた素材で作った、高ランク装備だった。
鍛冶屋は、まるで羽が生えたかのように体が軽くなると言っていたが、あながち嘘ではなかったらしい。
ハンナは上空でくるっと身をひるがえすと、双剣を構えべヒモスへ狙いをつけた。
しかし、敵も黙って空中からの攻撃を許すはずもなく、
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グルァッ!
頭を突き上げ鋭い角をハンナへ向けてきた。
落下と同時に串刺しにするつもりだ。
さすがのハンナも空中では自由に動けない。
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させません!
そこで、無数の矢が飛来する。
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グガッ!
矢は次々にべヒモスの胴体へ命中していく。
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まだまだ!
さらに連続で飛来。
三本の矢を同時につがえるシルフィは、まるで流れるような指さばきで乱れ打つ。
神業のような連射を可能としているのは、その弓の性質によるもの。
これもまた、高ランクの武具だ。
しかも彼女が放っているのは、麻痺の液体が付着した矢。
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ナイスだよ! シルフィ!
べヒモスが固まり、小刻みに体を震わせる。
ハンナは両手の剣を振り上げて急降下し、ラミィは地を蹴りミスリルソードを振り抜く。
無数の剣閃が走り、やがて血が飛び散ると、べヒモスは断末魔の咆哮を上げた。
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グギャァァァァァンッ!
けたたましい咆哮の後、森へ静寂がおとずれる。
シルフィは高揚感が抑えられず、弾むような足取りへ二人の元へ駆け寄った。
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や、やりましたね! 二人ともお怪我は?
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ナイス援護だったよ、シルフィ
ラミィとハンナがVサインを出してシルフィは頬を緩ませる。
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それにしても、今までの戦いが嘘のようだね
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そうそう、ヤマトくんの言う通りだったよ。装備さえそろえれば、ここまで戦えるんだねぇ
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ですね! やっぱりヤマトさんは凄い方です!
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うん、ますます惚れちゃうねぇ~
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はい! って、えぇ!?
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にひひぃ……今のうちにつばつけておこうかなぁ
ハンナがいやらしい笑みを浮かべて舌なめずりすると、シルフィは真っ赤になって叫んだ。
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わ、私っ、負けません!
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ふふふっ、まったく罪作りな男だよ、ヤマトは
それからのトリニティスイーツは、順調に成長を続け、知名度もそれなりに上がっていた。
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なに? って、うわっ!?
パーティメンバーと露店の並ぶ市場を歩いていると、ヤマトの腕へハンナが抱きついてきた。
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にゅふふっ、ヤマトくんの腕は細くて可愛いね~
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ちょ、ちょっとハンナ!? 急にどうしたのさ?
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そ、そうですよハンナちゃん! そんなうらやまっ、じゃなくて……急に抱きついたりしたら、ヤマトさんが転んじゃいますよ
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ただのスキンシップだよぉ
そう言ってハンナは幸せそうに目を細めながら、ヤマトの腕に頬ずりしてくる。
彼女はこの頃、ヤマトに過剰なスキンシップをとるようになっていた。
心を開いてくれているのだから喜ばしいことだが、獣人族とはいえ同年代の女の子に密着されれば彼も気が気でない。
これも動物に好かれるヤマトの性質なのだろうか。
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ス、スキンシップなら、私もいいですよね? ……え、えいっ
小さく呟いたシルフィがハンナの反対側に回り、左腕へギュッと抱きついていた。
エルフの尖った耳が真っ赤になっている。
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シ、シルフィまで!?
ハンナとは違って控えめに優しく抱き着くものだから、なんだかムズムズする。
露店の店員や通行人の視線が突き刺さり、居心地が悪い。
すると、ヤマトの右肩と左肩からピー助とポゥ太が冷やかすように鳴いた。
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(しょ、しょうがないだろ!)
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ラ、ラミィまで……
しばらくヤマトは、左右から上目遣いに見上げて話しかけてくる美少女たちに難儀しながら、転ばないようにゆっくり歩いた。
慣れていない彼は内心ドキドキで気が気でない。
やがて、彼の前を歩いていたラミィが足を止める。
目の前に四人組のパーティーが立ち、道をふさいでいたからだ。
しかし、彼らが目を向けていたのはヤマトただ一人だった。
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なんだぁ? 無能の資金管理野郎じゃねぇか。お前、まだここにいたのかよ
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マキシリオン……
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君、ザコのくせになんで可愛い女の子たちに囲まれてるわけ? もしかして、ソウルヒートの名前でも借りて、チヤホヤされようって魂胆
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ふんっ、下品ですわね
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い、いや、僕は別に……
ライダとスノウがさげすむような目を向けて吐き捨てた。
それを聞いたハンナとシルフィは、むっとして眉を寄せ、ヤマトから体を離すと彼を守るように一歩前へ出た。
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ヤマトくん、この人たち誰?
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ハンターパーティのソウルヒートだよ
ヤマトはそう紹介しつつ、ソウルヒート三人の後ろに、長くて綺麗な黒髪を後ろへ流した美女が立っていることに気付いた。
初めて見る女性だが、ハンター用の装備をしているところを見るに、ヤマトが抜けた後に加入した新メンバーといったところだろう。
饒舌なライダたちとは違い、なぜだか表情が暗い。
その視線に気付いたマキシリオンは、三日月のような歪んだ笑みを浮かべた。
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あぁ、紹介するぜ。こいつはマヤ、てめぇを追いだして加えたメンバーだ。資金管理だけじゃなくて、後方支援もできる優秀なやつだ
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そう、なんだ
ヤマトは複雑な心境で顔を引きつらせる。
しかしマヤは、なにも言わず目も合わせなかった。
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そんなことより君たち、そこの無能なんかといるより僕と遊んだほうが楽しいよ
ライダは優しい声色で言って、前髪をかきあげ微笑みながら近づいて来る。
しかし、ラミィの横を通りすぎようとしたとき、彼女はささやいた。
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これがソウルヒートですって? 冗談でしょ?
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信じらんない。少しでも憧れた私がバカだったよ
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訂正してください。ヤマトさんは無能なんかじゃないです
シルフィも加わり、雲行きが怪しくなってきた。
しかしマキシリオンはバカにするように吹き出し、スノウが片頬をつり上げながら告げる。
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あなたたち、気は確かですの? その男は、ただの無能でしてよ。一緒にいても邪魔なだけですわ
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ええ、聞き捨てならないね。彼は無能なんかじゃない。最強パーティのメンバーにふさわしい男だよ
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あぁん? てめぇら、なに言ってやがる。そいつは、財布の管理ぐらいしかできない無能だろうが!
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あんたたち、ずっと一緒のパーティーにいたのに、なにも分かっていないんだね
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あ?
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私たちがどん底からはい上がれたのは、ヤマトがアドバイスをしてくれたからよ! 資金管理をなめるな!
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ラミィの言葉に、ソウルヒートの面々は目を見開く。
そしてその後ろにいたマヤも、顔をバッと上げヤマトを見つめた。
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……ふんっ、ずいぶんと手なずけてるみたいだな
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つまらないね
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そうだよ。ヤマトくんのほうが、そこのナルシストくんなんかより、よっぽどカッコいいし
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ふふっ、ハンナちゃんの言う通りです
ソウルヒートとトリニティスイーツの面々がにらみ合い、バチバチと火花を散らす。
その火種となったヤマトは、一触即発の雰囲気に戸惑うが、マキシリオンたちの装備からあることに気が付いた。
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「……なぁ、大丈夫か?」
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あ? なにがだよ
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装備の質が前よりもだいぶ落ちてるみたいだけど……
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っ!
心配するようなヤマトの問いに、マキシリオンは固まる。
代わりにスノウが甲高い声を上げた。
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そ、そんなことありませんわ!
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でも、スノウだって、いつもの高いアクセサリー着けてないし
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あ、あなたには関係のないことですわっ
スノウは頬を引きつらせて目をそらした。
気まずい沈黙が訪れ、やがてマキシリオンが舌打ちして告げる。
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マキシリオン、ライダ、スノウは忌々しげに顔を歪め、なにも言わずにヤマトたちの横を通りすぎて行く。
しかしそこで初めて、ヤマトは気付いた。
マヤが自分を凝視していることに。
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マヤさん、だっけ? どうかした?
しかしヤマトと目が合うと、彼女は頬をみるみる紅潮させ目をそらした。
そしてそそくさとマキシリオンたちの後を追う。
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……あれがソウルヒートだなんて、いまだに信じられない
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うん、ヤマトくんが無能だなんて、本気で言ってるのなら頭がおかしいとしか思えないね
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ヤマトさんっ、私たちはあなたの味方ですから!
シルフィはヤマトの手を握り、柔らかく微笑んだ。
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みんな……ありがとう
気恥ずかしくなって、うつむいたヤマトの表情は見えなかったが、その声は感謝に震えていた。
…………………………
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くそっ、無能のヤマトごときが、調子に乗りやがって!
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許せませんわね!
マキシリオンたちは負のオーラをまき散らしながら、ズカズカと往来を歩いていた。
事情を知らない人たちは彼らの圧におされ、道を開けている。
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なにがアドバイスのおかげだ、資金管理をなめるなだぁ? 頭おかしいんじゃねぇのか!? そんなもんで強くなれるんなら、誰も苦労しねぇだろうが
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そうだねぇ。いったいどうやって彼女たちに取り入ったのやら
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それもこれも、マヤの資金管理が下手なせいですわ! それをヤマトなんかに見抜かれてしまったんですもの。あのあわれむような目、我慢なりませんわ!
スノウがそう言うと、三人ともマヤへ目を向ける。
酷い言いがかりだが、マヤはもう反論しなかった。
ただただ、トボトボ歩きながら淡々とあやまる。
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まあまあ、スノウも落ち着いて。マヤちゃんだって悪気があるわけじゃないんだからさ
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しっかしよぉ、資金の減りが早いのも事実なんだ。ちゃんとしてくれよな、マヤ
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ええ、分かってるわ
マヤはうつむいたまま答える。
出費を抑えるように何度も言っているのに、それを聞かない彼らの自業自得ではあったが、マヤはこれ以上なにも言わない。
言ったところで、また自分の資金管理が下手なのだと言われるだけだ。
もはやあきらめていた。
ソウルヒートの歩む先にあるのは滅亡のみ。
だからこそ、今のうちに身の振り方をよく考えなければならない。
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(ヤマトさん、だったわね……)
不機嫌そうにズカズカと歩いていくメンバーたちだったが、マヤは一人立ち止まり、背後を振りむいた。
もちろんヤマトたちの姿はもう見えないが、マヤは彼との出会いに胸を高鳴らせる。
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彼は本物だったわ。断じて無能なんかじゃない
パーティの女の子たちが言っていたように、弱小パーティが資金管理のおかげで急成長したと言うのなら、間違いなくヤマトの手腕だろう。
マヤでは想像すらできないほどの実力を持っているに違いない。
それに、彼は一目見ただけで、ソウルヒートの資金力低下を見抜いていた。
それこそ、金銭的価値を見抜くことのできる、鋭い目利きのなによりの証拠。
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ヤマトさん、あなたはいったい……
彼が最後に向けた、かつての仲間を気遣う視線を思い出し、マヤは手で胸を押さえた。
ソウルヒートのメンバーに冷遇されていたせいか、彼の優しげな眼差しがマヤの心をかき乱す。
自分でもよく分かっていない温かい感情を抱きながら、マヤはマキシリオンたちの後を追うのだった。