#1 追放【投資家ハンターの資金管理 プロローグ】

プロローグ

マキシリオン
おい、ヤマト! てめぇはクビだ!

 

『ヤマト・スプライド』は、この町で最強パーティへと成り上がった『ソウルヒート』のリーダーからそう告げられていた。

 

ヤマト
ま、待ってよ! クエストから帰って来て突然、わけが分からないって!

 

場所はギルドのクエスト仲介所。

仲間たちの帰りを待っていたヤマトがかけられた言葉は、「ただいま」というありふれた言葉ではなかった。

 

ライダ
いやね、さっきのクエストが楽勝だったから、余った時間で話し合ったんだ
ヤマト
な、なにを?

 

ライダ
これまで僕らは、リーダーと僕で前衛、『スノウ』が後方支援の三人でクエストをこなしてきた。それで、君の役割は?
ヤマト
それは、パーティの資金管理をして、みんなが戦っている間に消耗品を買いそろえたり、割高な報酬が出るクエストを探したりして……

 

ヤマトは足手まといになるからとクエストには同行させてもらえず、彼らが戦っている間に次のクエストで必要になる消耗品の調達や割安な装備の調査、厳密な帳簿の作成と予算計画を立てていた。

これは決して雑用ではなく、ハンターパーティの運用における重要な役割だ。

そのおかげで、ソウルヒートは効率良くクエストをこなしていけているのだとヤマトは自負している。

 

ライダ
そう、それだよ! 僕らは根っからの面倒くさがりだから、今まで資金管理や雑用をすべて君にまかせてきた。でも、僕らはもう最強だ。装備は十分に整っているし、金もたっぷりある。君に細かい調整をしてもらわなくても、力押しでどうとでもできるんだ
ヤマト
だからって僕がいなくなったら、誰がパーティの資金を管理するのさ!?

 

整った顔立ちの剣士『ライダ』の言葉に、ヤマトが反論すると、リーダー『マキシリオン』の横に立っていた、金髪ショートカットの女『スノウ』が口を開いた。

 

スノウ
そんなの決まっていますわ。あなたを追いだして空いたパーティ枠に、新しいメンバーを迎え入れますの。ちょうど、私の知り合いの中に、最近フリーになった笛使いがいますので
ヤマト
し、資金管理は?
スノウ
あなた、ふざけていますの? パーティの財布を管理するぐらい、誰でもできましてよ。彼女には、資金管理をしつつ、戦場では私と一緒に後方支援を担当してもらいますわ
マキシリオン
スノウの言う通りだ。これで純粋な戦力アップ。むしろ今まで、4人パーティの大事な枠の一つを、てめぇみたいな無能で埋めてたのが異常だったんだ。まぁ俺らが強すぎて、それすら気にならないほどの戦績を上げていたってことだけどな

 

マキシリオンがゲラゲラと声を上げて笑い、ヤマトの顔が青ざめる。

 

ヤマト
そ、そんな……

 

スノウ
あなた、鳥と話ができるっていうから、なにかの役に立つかと思って置いていましたけれど、結局なんの役にも立ちませんでしたわね。少し顔がいいから、リーダーに無理言って置いておいてもらいましたが、もう見飽きましたわ。今まで私たちの稼いだ大金を好きなように使えたこと、光栄に思いなさいな

 

好きに使えたとは言うが、彼らの金使いが荒すぎてそんな簡単なことではない。

スノウの言葉に反応し、ヤマトの肩に乗っている白い小鳥が威嚇するように鳴いた。

 

ピー助
クェッ、クェェェッ!(ふざけるな、このあばずれ!)

ヤマトだけは小鳥の言っていることを理解していた。

実は、幼少期の生活の影響で、彼は鳥やリスなどの言葉が分かるのだ。

しかし粗暴な仲間たちには、耳障りな雑音にしか聞こえない。

 

ライダ
うるさいよ

端正な眉を歪めたライダが剣の切っ先をヤマトへ向けると、小鳥は怯えて鳴き止む。

ヤマトが悔しさと怒りを滲ませて、リーダーのマキシリオンを睨むが、彼は薄ら笑いを浮かべて告げた。

マキシリオン
邪魔だ、失せろ
ヤマト
……手切れ金は?
マキシリオン
あるわけねぇだろ、そんなもん
ヤマト
……分かったよ。今までお世話になりました
マキシリオン
ふんっ
ライダ
もう二度と僕の視界に入らないでほしいね
スノウ
同感ですわ

 

ヤマトは三人の見下すような視線を背に、ざわざわしている周囲のハンターたちの視線を浴びながら、去って行く。

仲介所の木製の扉を開けたところで、ライダが追い打ちとばかりに叫んだ。

 

ライダ
あっ、そうそう、今日からソウルヒートの預金口座は、ヤマト・スプライドが引き出せないように契約変更しておいたから
ヤマト
えっ……

 

ヤマトは金も職も奪われ、どん底に落とされるのだった。

しかし、リーダーのマキシリオンも、ライダも、スノウも、誰一人気付いてはいない。

ソウルヒートがなぜ、あまたの高ランククエストを連続でクリアでき、最強にまで上り詰めることができたのかを――

 

…………………………

 

ヤマトを追い出したソウルヒートは、その日の夜、新たなメンバーを迎え入れた。

町で一番大きな料亭の中央で、豪勢な料理の並ぶテーブルを前に、戸惑いの表情を浮かべているマヤだ。

最強のパーティと名高いソウルヒートの人気は凄まじく、今も周囲の客たちが羨望の眼差しを向けている。

イケメン剣士のライダがファンサービスとばかりに、女の子たちへ微笑むと、黄色い声援が上がった。

 

ソウルヒートは、鬼人族で大剣使いのリーダー『マキシリオン』、俊敏しゅんびんに動きアイテム運用とアタッカーを両立する色男『ライダ』、貴族令嬢でありながらハンターをしている弓使いのスノウ、と噂通りの強者ぞろいで、マヤは期待に胸を膨らませていたのだが――

 

ライダ
いやぁ、さすがはスノウだ。こんな美人な知り合いがいるなんて

 

ライダが前髪をかき上げ、白い歯を見せて微笑む。

彼は少し長めの黒髪に、爽やかな容姿で女性からの人気が高いイケメンだが、マヤは彼のナルシスト感が好きになれなかった。

先ほども、艶のあるマヤの長い黒髪に触れてこようとして、ゾッとしたぐらいだ。

 

マヤ
……有名なソウルヒートのメンバーになれて光栄だわ

 

マヤは鼻筋の通った美しい顔を引きつらせ、淡々とした声で告げる。

それを緊張していると勘違いしたのか、マキシリオンが握った拳をマヤの胸の前へ突き出した。

 

 

マキシリオン
まぁ気楽にいこうや
マヤ
は、はぁ……

 

マヤが両手でおわんの形を作ると、マキシリオンの手が開かれジャラジャラと少なくない額の通貨が渡された。

 

マヤ
え?
マキシリオン
あんたがいりゃ、俺らはもっと強くなれる

 

目を丸くするマヤに、マキシリオンはニヤリと片頬をつり上げる。

この席も彼女を歓迎するためにわざわざ予約したというし、ずらりと並んだ高級料理を見る限り、かなり羽振りがいいようだ。

マヤは不安を隠すことなく、いぶかしげに眉を寄せる。

以前いたハンターパーティも、それなりの実績はあったが資金面では苦労し、派手な出費は抑えていたのだ。

 

マキシリオン
おい、マヤにあれを渡せ
スノウ
かしこまりましたわ
マヤ
え? この紙に書いてあるのは……

 

スノウ
ソウルヒートの総資金ですわ

 

マキシリオン
これからマヤには、クエストでの後方支援に加えて、資金管理もやってもらう
マヤ
こ、こんな大金の管理、私がしても大丈夫なの?

 

感情の起伏が少なかったマヤが、驚きを隠せず声をうわずらせる。

それもそのはずだ。

そこに記載されていた帳簿には、約2000万ウォルという、そこらの平凡なハンターでは何十年かかっても貯められない金額が書かれていたのだから。

 

ライダ
構わないさ。なんたって、あの無能なヤマトが管理していたぐらいなんだから。僕はむしろ、マヤちゃんじゃないと嫌だよ

 

ちゃん付けにイラッときたマヤだったが、ホッと胸をなでおろした。

これだけの余剰資金があるのなら、手付け金やこの料理代など大したことはない。

それに、ハンターは強い装備や使用するアイテムが強さを大きく左右する。

つまり、それらを買うための資金力がハンターの強さのすべてだ。

 

先ほどから感じていた不安は杞憂きゆうだったと、マヤは頬を緩めた。

 

マキシリオン
まったく、これだけ貯まってるだなんて思わなかったな。さてはヤマトの野郎、黙って勝手に使い込んでたんじゃねぇだろうなぁ
スノウ
そうでしょうね。追放して正解でしたわ
マキシリオン
ああ、これでソウルヒートの未来は安泰あんたいだ!

 

しかし、資金管理のすべてをヤマトに任せていた彼らは知るよしもなかった。

金庫番の預金口座に預けていたその資金の多くが、彼らの稼いだ金ではなかったことを――